妄想小説
男女六人 卒業旅行
十四
乗り込む際に一瞬、裾の奥にちらっと白いものが見えた気がした。
(わざとじゃないよな・・・。)
そう思いながらも、ついさっき茉莉が握ってくれた感触を思い出して、おのれのものがズボンの下で硬くなりかけているのを感じる琢也だった。
ゴクンと生唾を呑みこんでからバックミラーを後方に直し、車をスタートさせる。それを見て、もう一台の方の運転席に乗り込んだ哲平も後を追って車を発進させる。さきほど哲平は運転が意外と上手い優弥の向うを張って、運送屋のバイトで運転はし慣れていると言い切ってしまったが、運送屋のバイトでは専ら助手席ばかりだったので運転には実はあまり慣れてなかった。それでも隣に玲子を乗せているので格好いいところを見せようと張り切るのだが、どうしても運転はもたもたしてしまうのだった。
「なあ、玲子。お前、本当は琢也と教会を廻りたかったんじゃなかったのか?」
後部座席から突然、優弥が話し掛ける。
「え? そ、そんな・・・。」
優弥から浴びせられた突然の言葉に玲子は思わず狼狽して言葉が出ない。その言葉に敏感に反応したのは問い掛けられた玲子だけではなく、運転している哲平もだった。哲平は幼馴染みの知世から玲子は優弥に惹かれているらしいとずっと聞かされてきていたからだった。茉莉が教会巡りで琢也を誘った際に、今がチャンスだと玲子を誘った自分が道化者のように思われてきてしまったのだった。
「れ、玲子・・・。お前、そう・・・なのか?」
「いやっ、そんなんじゃないわよ。優弥。なんで突然、そんな事言うの?」
「いや、別に。ただ、そんな気がしただけさ。」
玲子は優弥には自分の心を見透かされていたような気がして心の動揺を抑えきれなかった。それは運転をしている哲平も同じだった。そして哲平は憧れの玲子と教会巡りを始めてすぐ、ハリストス正教会の内部には入れないことが判って、琢也たちが行ったカトリック教会の方へ行ってみようかと提案した時に、玲子がすぐに同意したことに若干の違和感を覚えたことも思い出していたのだった。
「おい、哲平。信号が変るぞっ。」
後ろから優弥が声を挙げる。
「あ、いけねえ。」
慌てて急ブレーキを踏んで隣の玲子が前につんのめりそうになる。
「ご、ごめん。大丈夫だった、玲子?」
「あ、大丈夫よ。ちゃんとシートベルトしてたから。でも、琢也の車、先に行っちゃったわね。」
「いや、迷わないって茉莉が言ってたから大丈夫さ。すぐ追いつくから。」
「あ~あ、哲平のやつ。信号に引っ掛かっちゃったよ。少し止まって待つかな。」
「あら、大丈夫よ、琢也。すぐ追いついて来るわよ。有名な名所だもの。迷ったりしないわよ。」
「そうか。じゃ、先に進むことにするか。茉莉、さっきは優弥の運転だったんだろ。どうだった、あいつの運転は?」
「ああ、とっても上手だったわ。すいすいって感じで。途中、対向車がはみ出てきて危ないこともあったんだけど、するっとハンドル切って交わしてたわ。」
「へえ、そうなんだ。」
「でも、あなたも運転はとても上手よ、琢也。」
「琢也はさっき私と玲子に、免許は取ったばかりって言ってたわよね。」
茉莉の隣で知世が口を挟む。
「ああ。だから、免許取り立ての頃からずっと親爺の車を貸して貰って毎日のように運転の練習をしてんだ。俺は優弥と違って運動万能タイプって訳じゃないから。その分、練習を積んでいるのさ。」
「確かに琢也はスポーツマンってタイプじゃないけど、何でも出来る優等生よね。」
茉莉の言葉にちょっと照れながら、首を伸ばしてバックミラーで茉莉の様子を窺い見る。相変わらず短いスカートの裾の奥が今にも覗きそうな際どいところまでずりあがっている。
「あのさ。さっきの車で話してたんだけど、この旅行って最初から仕組んでたんだよな?」
「あ、それはね・・・。」
知世が説明しようとすると横で茉莉がウィンクして知世だけに判るように軽く首を振る。
「哲平が知世から旅行の事を聞き出して、合流するように仕組んだんでしょ、きっと。ねえ、知世?」
「あ、まあ・・・。そんな感じだけど・・・。」
実際には茉莉が旅行の計画を立て、知世と玲子を誘ったのだった。しかもそれとなく哲平にもその事を話してみたらと知世にけしかけたのは茉莉なのだった。その事を今度も言いそびれてしまう。
「あ、見えてきた。あれだろ、五稜郭タワーっていうのは。」
眼の前に見えてきたタワーに気づいて、五稜郭公園の駐車場がある方向へ琢也はハンドルを切る。
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