デッキ上三人

妄想小説


男女六人 卒業旅行



 一

 ボーッという汽笛が大きな船体を揺るがすかのように響き渡る。
 「お、そろそろ出航らしいぜ。」
 デッキの手摺りに寄りかかるようにして眼下に見下ろす青森港の埠頭を行き交う人の流れを見つめていた野田哲平は、すぐ横の樫山琢也と氷室優弥の方を向いて確認する。その次の瞬間、三人を乗せた青函連絡船、摩周丸はガクンと揺れたかと思うと、ゆっくり岸壁を離れ始めた。
 「ふうん、船の旅って初めてだけど、なかなか感慨深いもんなんだな、哲平。」
 「ああ、そうともさ。って言っても俺も初めてだけどな。優弥はどうなんだい?」
 「初めてに決まってるじゃないか。今時こんな連絡船で北海道に渡るなんて時代遅れじゃないのか?」
 「いやいや。知ってるか? この連絡船はあと三年もしないで無くなっちまうんだぜ。1988年に青函トンネルが完成したら廃船なんだってよ。つまり今しか無いって訳だ。この連絡船の旅を味わうのも。」
 「そうだな。哲平の言う通りだよ。俺もこの連絡船航路が終わってしまう前に乗れてよかったと思ってるよ。哲平はうまい事を思いついたもんだよ。俺たちの卒業旅行にしようなんてさ。」
 「卒業旅行って・・・。中学とか高校の時にも修学旅行は行ったじゃないか。」
 「いや、優弥。修学旅行っていうのはちょっと違うんじゃないか。ああいうお仕着せの旅行じゃなくて俺たちの意志で行くんだ。俺たち仲間の締め括りとしてさ。」
 「別に俺たち、これで今生の別れって訳でもあるまいに。」
 「そうは言ったってさ。大学もそれぞれ別々だけどあと一年ちょっとで終りだろ。来年は就活で旅行どころじゃなくなるし。それでその後就職したら、もう今回みたいに皆で集まって旅行なんて多分出来ないぜ。」
 「哲平の言う通りだよ。俺たち三人で旅行に出るなんて、これが最後のチャンスかもしれないな。」
 「何、感傷的になってんだよ。たかが北海道旅行だぜ。これからだって幾らでも・・・。あれっ。」
 「ん? どうした、優弥。鯨でも居たか?」
 「いや、あれっ・・・。あのミニスカートの女。なんだか茉莉に似てるなあって思って・・・。」
 「えっ? あっ、確かに。あれれ。その向こうに居るのは知世みたいだぜ。」
 「おいおい。玲子もいるぜ。あの白いワンピースの子。」 
 「や、間違いないな。ちょっと行ってみようぜ。」
 男達三人組は同じ中学生の時の同級生の女子三人が居る甲板の奥へと近づいていく。
 「おーい、茉莉っ。茉莉だろ。それから知世に玲子っ・・・。」
 声を掛けられた茉莉が最初に優弥の姿に気づく。
 「えーっ。どうしたの、貴方たち? どうしてここに居るの?」
 「俺たちこそ訊きたいよ。なんでお前等三人揃ってこの船乗ってんだよ。」
 男達、女達がそれぞれの仲間を振り返り首をかしげる。
 「私達、三人で大学卒業する前に一緒に旅行しようってことになったの。知世の提案よ。」
 「ええっ? 俺らもだよ。来年になったらもう旅行なんて言ってらんないからって哲平が誘うからさ。」
 「えっ。琢也君、そうなの?」
 半信半疑の玲子は、自分達を誘った知世の方を振り返る。
 「あら、わたしは知らないわよ。同じこと計画してただなんて・・・。」
 慌てて否定した知世だったが、男達からはなにげに視線を逸らしている。

 樫山琢也、氷室優弥、野田哲平の男三人、瀧川茉莉、深町玲子、本間知世の女三人はそれぞれ同じ湘東第一中学の同級生だった。それぞれは別々の高校に進学し、大学もそれぞれ別の学校に進んでいた。その六人が久々に再会したのは、ほんの半年前の同窓会でなのだった。北海道へ向かって進んでいく連絡船の上で、その再会した同窓会のことを哲平は思い返していた。

茉莉

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