妄想小説
男女六人 卒業旅行
四十四
「ねえ、茉莉。あいつら、またこっちの方観てる。貴方の脚、見てるのよ。パンツ、見られてない?」
「いやあねえ、知世ったら。大丈夫よ。男は皆んなそんなもんよ。」
ボート遊びを終えて、岸のテラスでお茶をして休んでいる茉莉たち女三人を、同じキャンプ場に泊っているらしい別のグループの男三人組がさっきから気にするように眺めているのだった。哲平たち男三人は、コテージのチェックインの手続きに行っているので女三人組の団体だとみられているらしかった。
「何かちょっとガラが悪そうな連中ね。気をつけましょ。」
玲子が注意するように二人に言うのは如何にも優等生の発言だった。
「おーい。茉莉ーっ。コテージ、もう入れるってよ。」
優弥の声に皆が振り返ると男子三人が管理人事務所から戻ってくるところだった。
「車から荷物、下ろして運び込んだら、少し辺りを散歩しようぜ。」
哲平の提案に、一同は駐車場の方に向かうのだった。
「えーっ。どうしたんだ、その格好。知世、お前・・・。」
「あら、哲平。そんなに驚くこと? わたしもこの旅行中はちょっとイメージを変えてみようかなって思っただけよ。」
コテージに荷物を運び込んで、着替えて出て来た知世の姿に男たちは玲子のホットパンツ姿を見た時とほぼ動揺のどよめきが起こったのだ。
「思い切って、長いジーンズの裾を切っちゃっただけよ。この方がキャンプ場っぽいでしょ?」
「確かに・・・。」
優弥も思いも掛けなかった知世のイメチェンに納得しながら頷く。
「知世って、案外スタイルも悪くないし脚も綺麗なんだな。なあ、哲平。」
優弥が隣の哲平に同意を求める。
「あ、ああ・・・。」
答えた哲平もまだ口をあんぐり開けたまま、呆気にとられている。
「さあ。散歩、行くわよ。」
そこにはいつもの白いワンピース姿に戻った玲子も、別の挑発的なミニに着替えた茉莉も加わっていて、男子三人はその後を追い掛けていくのだった。
海岸沿いの遊歩道が途中でY字路になっているので、海岸とは違う方の道に入ってみると小さな小屋のようなものの前に出る。
「知世、何かしらね、あの小屋みたいの。」
「ああ、玲子。多分あれは野鳥観察用の小屋ね。この辺は自然保護区になっているから。」
「ふうん、あんな小屋にこっそり隠れて観察をするんだ。」
「あれ、こっちの道。もうここら辺りで行き止まりみたいだぜ。戻ろうか。」
少し先を進んでいた哲平の声で、一同は来た道を戻り始まる。
分かれ道にでて、今度は海岸沿いの方を進むとこちらにもさきほどと同じような野鳥観察小屋が見つかる。
「あら、こっちにもあるわ。ねえ、知世。これもそうよね。」
「そうよ、茉莉。私、大学のゼミで自然観察の講座採ったことがあって使ったこともあるのよ。」
「キャンプ場からはちょっと離れているから、野鳥も安心して飛んでくるのかな。」
「そうね。このくらい静かだと警戒心の強い小鳥なんかも来そうね。」
「何か、別のことにも使えそうだけど。」
「え、茉莉。どういう意味・・・?」
「さあね。」
茉莉は恍けて先にどんどん歩いていく。
男子三人は、女子三人からは少し遅れて歩いていた。
「なあ、琢也。お前、本当はどっちなんだ。茉莉と玲子・・・。」
「え、優弥。どういう意味だよ。」
「玲子のやつ、お前が煮え切らないから淋しそうだったぞ、さっき。」
「なんだよ。ボートの上で、俺の噂とかしてたのか。」
「茉莉の方は結構お前にモーション掛けてんじゃないのか?」
勘の鋭い優弥の言葉に、思わず琢也は狼狽える。
「キスぐらい、迫ってきたんじゃないのか? あ、お前があっちの方がよければそれでいいんだけどな。」
「いや、俺はその・・・。」
「ただ、もし玲子に気があるんだったら、ちゃんと誘ってやれよ。今夜とか。」
「え、誘う? 優弥、お前はゆうべ玲子とは何もなかったのか・・・。」
「あるわけねえだろ。俺だって玲子の気持ちぐらい、ちゃんと読めるからな。」
「そ、そうなのか・・・。」
琢也はあらためて、ゆうべ知世と何もしなくてよかったと思い返すのだった。
「わたし、管理事務所の方に行ってバーベキューの要領を訊いてくるわね。その間、火起こしのやり方とか見て置いて。」
「茉莉。一人で大丈夫?」
「ええ。材料をどうやって持ってくるのか訊いたら、運ぶの手伝って貰うからちょっと待ってて。」
予約をした茉莉の適確な指示の元、男たちはバーベキューコンロが並んでいる海を見晴らすテラス席のほうへ様子を見に行く。
管理事務所でバーベキューの要領を聞いた後、戻る途中で、後ろからピューっという指笛の音を聞いて茉莉は立ち止まって振り返る。昼間、じろじろと見ていると知世が気にしていた別のグループの男性組だった。
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