シャワー室

妄想小説


男女六人 卒業旅行



 三十七

 ドアの向うからシャワーを使う音がずっと響いている。その音を聞きながら知世は自分のブラウスのボタンを外す。ズボンのベルトを緩め、腰から抜き取る。背中でブラジャーのホックを外してショーツも脱ぎ捨てる。全裸にバスローブだけを羽織ってゆっくりバスルームの前に立つ。まだシャワーの音が続いている。ドアノブに手を掛けてゆっくりと手前に引く。
 「一緒に入っていい?」
 シャワーの音が一瞬止む。バスローブの紐を解いて、背中から下に落とすと裸の肩に琢也の手が伸びてくる。
 「おいで。」
 優しく琢也が耳元で囁くと、そのまま抱かれるようにシャワーの下に導かれる。頭の上からシャワーの温かい湯が降り注いでくる。目を開けていられず、閉じていると琢也の手が自分の身体をまさぐっているのが判る。洗ってくれているのか、身体の感触を愉しんでいるだけなのかもう判らない。
 「おいで。一緒に入ろう。」
 琢也に導かれるままにバスタブに身を落とす。琢也の裸の胸にもたれかかると、両側からぎゅっと抱きしめてくる。
 目を瞑ったまま、唇を突き出す。そこに琢也の唇が重ねられる。

 「いいよ。終わったから。風呂、替わろう。」
 突然聞こえてきた琢也の声に知世は自分の妄想から目覚める。
 「ああ、ありがとう。いま、私も入るわ。」

 ガチャリと小さくドアが音を立てる。
 (大きな音を立てないように気を使っているのだろう。もう寝てると思ってるのかしら。)
 ダブルベッドのなるべく端になるようにシーツを少しだけめくって潜り込んでいた玲子だった。
 「ふうーっ。」
 背中の方で溜息とも気合いとも取れるような大きな息を優弥が立てたのが判る。またブシューッという音がして新しい缶ビールが開けられたようだった。
 (寝息がしないのは変かしら。でも急に寝息を立てるようになったらもっと変かも。)
 玲子にはただ気配を消してじっとしているしかなかった。
 (ああ、来るなら早く来てっ。息が詰りそう。)
 しかし、その後は二回、グビッと喉を鳴らす音がしただけだった。やがてベッドの反対側からシーツが少し引っ張られるような感触があっただけで静かになってしまう。
 (いやだ。このままじゃ、朝まで眠れないわ。)
 そう思っていた玲子だったのに、何時の間にか意識は遠くなっていたのだった。

 茉莉はまだ寝てはいなかった。ベッドの中に下半身は突っ込んでいるが、身体は壁にもたせ掛けている。
 「まだ起きてたのか・・・?」
 「あ? ええ。」
 「なあ、茉莉・・・。お前、本当に優弥と一緒じゃなくてよかったのか?」
 「どうして?」
 「いや、何となく・・・。琢也とだったら・・・、どうだったかな。」
 「さあ。」
 「んなの、わかんねえよな。」
 「そうね。」
 哲平には茉莉が今、何を考えているのかさっぱり分からない。風呂の中で散々シミュレーションを繰り返したのだったが、よしこれで行こうという案は結局思いつかなかった。
 「寝るか。」
 「うん。」
 素直な返事が返ってきたのが、哲平には意外だった。哲平がシーツをめくって身体を滑り込ませると、茉莉も身体を滑らせながらシーツに潜り込む。
 (お前には無理だよ・・・)優弥の言葉がまたまた哲平の頭に浮かんでくる。
 (ちぇっ、そうかよ。)
 心の中でそう呟くと目を閉じる。
 「ね、哲平。手を出して。」
 「え?」
 聞き間違いかと思いながら、シーツの中で片手をゆっくり茉莉の方にずらしていく。その手を茉莉の温かい手が包み込んだ。
 思わず哲平は生唾を呑みこむ。
 握られた手を動かさないようにゆっくりと身体を茉莉の方へ向けてみる。しかし茉莉のほうは既に軽い寝息を立てていた。
 (マジかよ・・・。)
 そのまま手を握られた状態で、身体を硬直させているしかない哲平なのだった。

茉莉

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