ライト点灯バイク

妄想小説


男女六人 卒業旅行



 六十八

 服を着て小屋の外に出ると、もう辺りは明るくなりかけていた。
 「歩けるか?」
 「うん、大丈夫。行きましょう、哲平。」
 二人は再び山道をとぼとぼ降り始めた。その時、遠くからエンジン音が近づいてくるのが聞こえてきた。
 「何かこっちへ来るわ。」
 それはライトを点したバイクだった。
 「しめた。助けて貰おう。おーい。」
 哲平はバイクに向けて大きく手を振る。フルフェイスのヘルメットを被った青年が近くまでやって来て二人の前で停まる。
 「どうかしましたか?」
 ヘルメットを取った若者の顔を見て、玲子は(あっ)と声を挙げそうになる。
 「どっかで逢ったこと、ありますよね。」
 「い、いや・・・。」
 若者は明らかに知らない振りをしている様子だった。
 「思い出した。あの時の・・・。私を助けてくれた人ですよね。」
 両手を縛りつけていた縄をナイフで切ってくれたのは間違いなく目の前の青年だった。玲子が気がついたことでもう隠せないと思ったらしく頭を掻きながら頷く。
 「え、玲子。どういう事?」
 「琢也に逢う為に野鳥観察小屋を捜していた時に、二人の男に襲われて両手、両足を縄で繋がれていたの。それをこの人が助けてくれたの。その時はただ逃げるのに夢中で、そのままになっちゃったんだけど・・・。あの時は、ありがとう・・・ございました。」
 「いや。俺が一緒に旅行をしていた二人なんだけど、俺が居ない間にこの人を拉致して犯そうとしていたんだ。でも、あの時は間に合って良かった。」
 「間に合った・・・?」
 「ああ。貴方が気を失っていたんで起きるまで待っていたらしい。で、事に及ぼうとしたところに僕が飛び込んでいったんです。」
 「飛び込んで行った? という事は、その男たちとは・・・?」
 「喧嘩別れっていうか。そんな事をしたら犯罪者になるぞって言ったんですけど。結局言い合いになって、もう一緒に旅行はしないって事になって、自分一人でバイク旅を続けることにしたんです。あ、俺。正輝って言います。」
 「正輝さん・・・。あらためてあの時はありがとうございました。私は玲子って言います。こっちは友人の哲平。」
 哲平は青年の話を聞きながら、裸の玲子を毛布の中で抱いた時、ペニスを挿入する時に玲子が苦痛に顔を歪ませたのを思い出した。
 (あの時・・・。それじゃ、俺が玲子の処女を・・・。)
 しかしその事は胸のうちにしまっておくことにした。
 「あの、実はこの道の先で車がガス欠を起してしまってガソリンスタンドを捜して歩いていたんです。」
 「そうだったんですか。それでこんな時間にこんな山道を・・・。あ、だったら予備の携行缶を持ってるから何とかなるかもしれない。」
 若者は荷物の中から数リットルは入りそうなガソリン用の携行缶とポンプを取り出してみせる。
 「それは助かる。数リットルでも分けて貰えれば、それでスタンドまでは何とか走れるかもしれない。玲子、バイクの後ろに乗せて貰って車のところまで案内してくれよ。俺は走って追っ掛けるから。」
 「いいですか?」
 「ああ、こうなったら乗りかかった船ですから。さ、後ろにのって。腰に手を回してしっかり捕まって。」
 正輝と名乗った青年は玲子をバイクの後ろに跨らせると山道を昇り始める。哲平はその後を必死で走って追いかけるのだった。

玲子

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