妄想小説
男女六人 卒業旅行
十七
そして六人は再びタワーの展望台で合流する。茉莉の提案で展望台内にあるティーラウンジでお茶をして行こうということになる。
「どうしたの、哲平。遅かったじゃないの。」
「ああ、知世。ちょっと道を間違えただけだよ。お前等がどんどん先に行っちゃうからさ。ちょっと焦っちゃってさ。」
「哲平は隣に玲子を乗せてたもんだから、いいところを見せようとしてよく道を知りもしないのに近道しようとしたんだよ。」
「そのなの、優弥。」
「隣に玲子が居たからは関係ねえよ。俺はただ早く追いつきたいと思ったから近道じゃないかと思った道を通っただけだよ。そうだよな、玲子?」
「私は・・・。よく判らないけど。哲平は一生懸命運転してたとは思うわ。」
「まあまあ、いいじゃないか。そんな事で揉めるなよ。無事、着けたんだからいいじゃないか。」
琢也が皆を取り成すように言葉をおさめさせる。
「ねえ。そう言えば、琢也。さっきはカトリック教会はすぐに出ちゃったの? 私と哲平でハリストス正教会に行ったら入れないって分ったんで、すぐに琢也たちの後を追ってカトリック教会に行ってみたんだけど、もう誰も居なかったのよ。」
「あれは・・・。」
琢也が何と答えようかと言い及んでいると、茉莉が途中から言葉を差し挟む。
「琢也が教会はあまり興味がないっていうから、すぐに出て教会を見下ろす待合せの場所へ行ったの。その後、やっぱり基督教団の函館教会も観ておこうってなってそっちへ行ってたのよ。」
琢也は茉莉が事も無げにすらすらっとそう言うのを聞いていて、茉莉の機敏さに舌を巻く。哲平と玲子が自分達を追い掛けてきていたとは思いもしなかったが、その間ずっとカトリック教会の懺悔室で己のペニスを握られてじっと潜んでいたのだった。
茉莉の話を聞きながら鼻白んでいたのは知世だった。最初に行った基督教団の函館教会であまり興味がないからと優弥に言われてすぐ出たのは自分達で、そのまま教会を見下ろす待合せの場所へいち早く行ったのは優弥と知世の将に二人だったからだ。勿論、その時には琢也と茉莉の姿はそこにはなかったのだ。
「この後は何処へ行くんだ? 茉莉の計画は?」
「哲平は何でも茉莉まかせなのね。貴方自身の計画はないの?」
「そんな事、言うなよ。知世だって、俺があんまり計画づめで行動するタイプじゃないのは知ってるだろ。」
「まあまあ。私の計画ではこれから函館を出て北上して駒ヶ岳の麓にある大沼っていう湖の湖畔で宿を捜すつもりだったの。今からこっちを出れば、夕暮れ前にはあっちへ着けると思うの。」
「ふうん、そうか。じゃ、あっちまでは同じグループ分けで行くか。」
「そうね、そうしましょう。」
哲平の提案に玲子も素直に従おうと言葉を併せたのだった。
一同がタワーを降りようとエレベータの方へ向かっていた時だった。茉莉が何かを見つけて声を挙げる。
「あら、あれっ。何かしら。」
「え? シースルーフロアって書いてあるぜ。」
哲平も小さな看板案内を認めて、近づいていく。
「ああ、わかった。床に透明のガラスが嵌め込まれていて、タワーの下までが見えるんだ。ちょっと怖いけど、観てみようぜ。」
「え、タワーの下が床から覗けるの? 私、無理っ。」
展望台のガラス窓を通しても下を見るのがおっかなびっくりだった知世が怖そうに言う。
「別に何百メーターもある訳じゃないし、大したことないだろ、哲平。」
優弥が平気そうな顔をして、哲平に言う。
「優弥。そう言うけど、ここに来て上に立ってみろや。さすがに足の下が何もないみたいで、ちょっと怖いぜ。」
「あら、私。そういうの、意外と好きよ。」
そう言ってシースルーフロアに敢然と近づいてゆくのは茉莉だった。
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