妄想小説
男女六人 卒業旅行
四十七
夜も大分更けてきた頃、少し前からしきりに時計を気にしていた琢也が立上る。
「ちょっと呑み過ぎたみたいだから、すこし酔い覚ましに外を歩いてくるわ。」
「そうだな、琢也。お前にしちゃ、随分ペースが進んでるなって思ってたんだ。」
そう言う哲平も、もう顔がかなり赤くなっている。一人マイペースで呑んでいる優弥だけが悠然とオンザロックのお代りを作っている。
「私もちょっと呑み過ぎたみたい。外の風に当たってくるわ。」
琢也が出ていって暫くしてから玲子が立上る。
「玲子。一人で行くのか? 俺が付いていってやろうか。」
声を掛ける哲平を横から知世がシャツを引っ張って振り向く哲平に小さく横に首を振る。
「ん? 何っ・・・。え? あ、そう言う事?」
知世の思いを察して、哲平もすんなり引き下がる。
コテージの中では自然と哲平と知世、優弥と茉莉というカップルになって呑み続けていた。
外に出た玲子は腕にした小さな時計をロッジの外灯のあかりに翳して確かめる。
『夜の9時にY字路の右の方の道の先の野鳥観察小屋で待ってる T.』
バーベキューの合い間にこっそり琢也から貰った紙切れを茉莉からエプロンを返して貰った後、皆に気づかれないように読んだ時に、そう書いてあったのだった。しかし、その手紙に書かれた右という文字は琢也が書いた左という文字に茉莉が一本縦棒を足して右に見えるようにしたものだとは玲子は思いもしないのだった。
「Y字路の右」というのはすぐに見当がついた。散歩の時、茉莉が「別のことにも使えそう」と言った意味が今になって判った玲子だった。
午前中のボート漕ぎの時には、琢也はもうすっかり茉莉に夢中なのだと思っていただけに、手紙を渡されて思わず胸が熱くなった玲子だった。
(もし求められたら・・・。)
玲子は既に覚悟を決めていた。
逸る気持ちを抑えながらも、期待にどんどん胸が膨らんでいく軽い足取りの玲子には後ろからこっそりつけてきている者が居るなどとは思いもしない。
(Y字路の右・・・だったわね。)
分かれ道を過ぎて、暫く歩いていくと野鳥観察小屋の黒い影が見えてくる。足音を立てないようにゆっくり静かに小屋に近づいていく。
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