帯広ホテル

妄想小説


男女六人 卒業旅行



 五十六

 二台の車が帯広市内に入ったのはもう夕暮れ時だった。観光地ではないので、駅前のビジネスホテルの前の駐車場に乗り入れた琢也と優弥だった。
 「俺と優弥とで部屋が取れるかフロントまで行ってくるから、ここで待っててくれよ。」
 哲平は四人を地下の駐車場に残して、優弥とホテルのフロントへ向かう。

 「まいったなあ。ビジネス用のホテルだから、シングルかツインしかないんだって。全員シングルで泊るってのも勿体ないし、一組だけ男女で泊るってのもなあ・・・。」
 数日前にラブホで男女ずつで泊った時の気まずさを思い出して哲平が言う。
 「ツインを二つとって、後はシングル二部屋でどうだ。誰がシングルの部屋になるかはじゃんけんだな。いいだろ、哲平。琢也。」
 優弥の提案で男たちはじゃんけんをすることになり、琢也がシングル部屋に決まる。それを横で聞きながら女子達が相談する。
 「いいわよ、私が一人になるから。知世と玲子でツインにしたら?」
 「いいの、茉莉? そうする、玲子?」
 「わたしは構わないわ。茉莉、ごめんね。」
 「いいのよ、玲子。わたしは一人の方が気が楽だから。」
 部屋が決まるとチェックインに入って、夕食を採る為にロビーに再度集合してから街へ繰り出した六人だった。

 炉端焼き屋で酒を酌み交わした六人がほろ酔い加減でホテルに戻ってきたのはもう9時近かった。
 「じゃ、明日7時にロビー集合な。寝坊するなよ。」
 哲平が集合時間を確認してそれぞれが部屋に向かう。
 「なあ、琢也。じゃんけんでお前が一人部屋に当たったけど、俺と代わってくんないか?」
 そう言って琢也に近づいて来たのは優弥だった。
 「別にいいけど。」
 「悪いな。俺、一人のほうが眠れるんでな。哲平もいいだろ。」
 「ああ、勿論かまわねえよ。琢也ともじっくり話したいし。」
 そういうと、一旦は置いた荷物を取戻し、それぞれの部屋に別れたのだった。

 「なあ、琢也。お前はいったいどっちを選ぶつもりなんだ? 茉莉と玲子・・・。」
 ふたりっきりになると哲平は前から口にしてみたかったことをとうとう切り出す。
 「え、どっちって・・・。」
 「だってよ、お前。函館の教会じゃ、いつのまにか茉莉と居なくなっちゃうし。支笏湖のボートでも一緒だったろ? それに今朝は二人だけで先に行っちゃうし・・・。かと思うと、大沼のサイクリングの時は俺たちが戻ってきたら、玲子といい感じだったし、ゆうべは夜中に玲子を呼び出してるし。いったい、何考えてんだよ。」
 哲平の言葉にあらためて自分が茉莉と玲子の間で揺れ動いていることに気づく琢也だった。
 「玲子とは、ゆうべ本当に何もなかったんだよな。」
 「ああ。玲子、待合せの場所には来なかったからな。」
 「茉莉とはどうなんだ。何か、したのか?」
 突然哲平に言われて、どきりとする。襟裳岬でラブホテルの休憩に誘ったのは間違いなく自分だった。しかし、茉莉にフェラチオまでされたのに出来なかったのだ。さすがにそこまでは哲平に白状するわけにはゆかなかった。茉莉の手では二度も射精してしまっている。それなのにまだ童貞を卒業するには至っていないのだった。
 「キスぐらいはしてんだろ。茉莉と・・・。」
 「キスぐらいまでなら、な。」
 キスぐらいと言われて、したことを誤魔化す為につい言ってしまった琢也だった。
 「お前はどうなんだよ。知世に筆おろし、して貰うんじゃなかったのか?」
 「そんな事、気楽に言えるかよ。え、童貞なの?ってきっと言われちまうんだぜ。」
 「ってことは、してもいいとは思ってるんだ。今日も幸福駅で仲良さそうだったからな。」
 「ちげーよ。あれは玲子の方に気を使ってたんだよ。玲子に何があったのかは気にしてませんからってポーズだよ。」
 「玲子に何が・・・って、なんだよ?」
 「お前には言ってなかったけど、お前が逢えなかった夜、玲子一人で走って帰ってきたんだぜ。それも服があちこち破けてて・・・。頬に擦り傷もあったんだぜ。」
 「え、それって・・・。どういうことだ?」
 「茉莉が様子を見に行って、野犬に襲われたって俺たちには言ってたけど。あれは野犬じゃなくて野犬の皮を被った男じゃないかって俺は思ったけど。」
 「つまり誰かに襲われたって? まさか、犯されたんじゃ・・・。」
 「それはわからん。でも夜ひとりで出て行って、暫く帰って来なかったんだからな。」
 「まさか・・・。」
 琢也は初めて知った事実に愕然とするのだった。

茉莉

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