山道

妄想小説


男女六人 卒業旅行



 三十二

 「結構な山ん中なんだな。支笏湖までの峠道って。運転、大丈夫か。茉莉?」
 助手席の優弥が気づかって先行して運転する茉莉に声を掛ける。
 「平気、平気。これくらいの道、何て事ないわ。」
 「でも、結構暗くなってきてしまったわね。もっと早く出れば良かったわ。登山で疲れたからって、お昼をゆっくりし過ぎたわね。」
 後部座席からも知世が不安そうに声を掛ける。
 「哲平の車に先に行って貰ったほうがよくないか、茉莉?」
 「あら、いいわよ。後ろからついていく方が運転は難しいから。前を走る方が自由に運転出来るから気を使わなくていいわ。」
 「そうか。でも薄暗いからライトは点けておけよ。」
 「わかったわ。」

夜の対向車

 「茉莉のやつ、運転大丈夫かな? 大分暗くなってきちゃったからな。」
 「茉莉は呑んで遅くなった親父さんの迎えで結構夜走ってるっていうから、慣れているんだろ。それよりあんまり近くになり過ぎるなよ。ライトで前に居るのは確認出来るんだから、哲平。」
 「ああ、わかってる。でも、茉莉のやつ。結構飛ばしてるからなあ。」
 そう言いながらも哲平は茉莉の後をついていくのがやっとの状態なのだった。

闇の人影

 「きゃっ、何っ?」
 突然、茉莉が大声を挙げて急ブレーキを掛ける。
 「うわっ、危ねえ。」
 すぐ後ろを走っていた哲平も慌ててハンドルを切って前の車を除ける。しかし車は大きくバウンドして斜めになってやっと停まる。
 「どうしたんだ、茉莉っ。」
 後ろの車から窓を開けて琢也が前の車に声を掛ける。
 「ごめん。急に人影が暗闇から・・・。」
 茉莉もドアを開けて降りてくる。それを追い掛けるように優弥も降りてきた。
 「いや、俺も見たけど人影に見えただけだ。何か壊れかけた古い看板みたいだった。」
 「なあんだ。びっくりしたなあ。あれっ、哲平。」
 後ろを振り向くと、哲平はまだ車の中に居る。しかも車は大きく傾いているのだ。
 「やべえ。側溝に脱輪してる。」
 車の中から哲平が窓を開けて叫んでいる。アクセルを吹かすのだが、後輪は片方が浮いてしまっていて空回りを繰り返すだけだった。
 「ちょっと男たちだけで押してみるから、玲子は茉莉の車の中に入って待ってろよ。」
 玲子を傾いた車から降ろすと、優弥と琢也が二人で後ろから押してみるが車はびくとも動かない。
 「駄目だな、こりゃあ。レッカー車を呼ばなくちゃ。」
 「でも、優弥。結構な山ん中だからな。すぐ来てくれるかな。」
 「いや、まず電話のあるところまで行くだけで結構時間が掛かりそうだ。多分、今日は無理だろう。」
 「そうだな。困ったなあ。」
 場所はまだ洞爺湖と支笏湖の丁度中間地点辺りで、先に進むにせよ戻るにせよどちらにしてもかなり時間は掛かりそうだった。
 「レッカー車を呼びにいくにしても車一台では六人は乗り切れないから、何人かは山道に残されることになるな。」
 そこへ脱輪した車を側溝から出すのは無理と悟った哲平も車を降りてくる。
 「さっき、通り過ぎた明りが点いた看板があったろ。」
 「ああ、哲平。俺も気づいてた。あれ、ラブホだろ。」
 優弥が答える。琢也も暗い中にひとつだけ明りがある場所を通り過ぎたのを思い出していた。

茉莉

  次へ   先頭へ




ページのトップへ戻る