船着き場

妄想小説


男女六人 卒業旅行



 六十一

 「へえ、結構本格的なんだな。」
 知世に誘われてカヌー体験をやっている船着き場まで来た哲平は驚く。体験ではヘルメットにライフジャケットを纏って、インストラクタが付くらしかった。
 「先生。ふたりだけで漕ぐのは出来ないんですか?」
 一回りしてきたところで、知世が言い出すのを聞いて哲平はますます驚く。
 「ああ、いまの感じだったら大丈夫でしょう。でも、あまり流れの速いほうはいかないようにしてくださいね。」
 インストラクタは案外すんなり哲平たち二人きりで漕ぐのを許してくれた。

カヌー二人きり

 湿原の中の河はあちこちに支流のほうは細い水路があり、そのひとつに乗り入れると周りには他のカヌーの姿が見えなくなる。
 「おい、知世。ちょっと停めてみろよ。」
 知世に漕ぐのを止めさせるとオールを知世の前に投げ出し、哲平は腰をずらして知世の背中にぴったり身体をくっつけるようにして知世の手からもオールを取り上げる。肩を抱くと知世も哲平が何をしたいのかに気づく。後ろを振り向くようにして目を瞑って唇を尖らせる。哲平の唇がそこまであと一歩というところまで来たところで、カヌーがぐらっと横に揺れる。
 「あ、あぶねえ。」
 慌ててカヌーの縁を掴む哲平だったが、その手の上に知世も手を重ねていた。
 「ここじゃ、駄目そうね。危ないから後でね。」
 「ああ。きっとだぞ。」
 哲平もカヌーの上でキスをするのを諦めて再びオールを取り上げるのだった。

 カヌー乗り場で落ち合った六人は再び二台の車に分かれて阿寒湖畔のロッジを目指すことになる。優弥と茉莉、哲平と知世の二人は明らかに三組に別れた時とは雰囲気が違っているのをお互いに何となく気づいていた。しかし琢也と玲子の間は相変わらずで、玲子は当然のように琢也のほうの車には乗ろうとしない。哲平は車割りは変えて、今度は知世と一緒に乗ろうと思っていただけに、また分かれて後部座席に乗るしかないのだった。

知世

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