琢也と玲子接近

妄想小説


男女六人 卒業旅行



 二十六

 改めてすぐ目の前に琢也の顔を感じて、玲子は思わず眼を瞑る。それに気づいて琢也も顔を近づけようとする。その時だった。
 「おーい、琢也ぁ。玲子―っ。どうしたんだあ・・・。」
 遠くから近づいて来る特徴ある声にすぐに哲平と気づいた二人だった。何もなかったように、そっと身体と身体を離す二人だった。

 それぞれに何となくモヤモヤしたものを胸に秘めながら大沼を後にすることになった六人はレンタル自転車を返した後、二台の車に戻ってくる。
 「茉莉、次は洞爺湖だったな。ちょっと距離があるから、俺が運転するよ。哲平、いいよな。」
 「まあ、任せるよ、優弥。」
 その時、茉莉が突然名乗りをあげる。
 「ねえ、今度は私にも運転させて。」
 「距離あるけど、大丈夫なのか、茉莉。」
 「隣に琢也が乗ってくれれば心強いわ。いい、琢也?」
 「ああ、いいけど・・・。知世と玲子はどっちに乗る?」
 「あら、玲子は私の方に乗りなさいよ。知世は優弥の車のほうがいいんじゃない?」
 茉莉が勝手にあとの二人の乗る車を決めてしまう。知世に優弥の車と言ったのだが、それは暗に哲平と同じ車に乗せようという魂胆に違いなかった。
 「じゃ、その面子で出発するか。茉莉、気をつけてな。」
 「大丈夫よ、優弥。」

 大沼から洞爺湖へは距離はあるものの、比較的平らな海岸線をずっと北上するので、運転しやすい道とは言えた。女子の中で唯一人運転免許を持つ茉莉の運転は、最初は覚束ない感じはあったが、すぐに慣れてきたようだった。
 「どう、琢也。私の運転で安心して命、預けられる?」
 「命、預けるは大袈裟だよ。大丈夫、思ったより安定してるよ、茉莉。」
 「ねえ、後ろの玲子はどう?」
 「運転が滑らかなので、転寝してしまいそうよ。」
 「ごめんね。後ろに一人にさせちゃって。」
 「あら、いいのよ。私は後ろの席のほうが落ち着くもん。」
 「そう?」
 茉莉は運転しながら、隣の琢也のほうをチラッとみて表情を窺う。しかし琢也はそれにも気づいていないのだった。

 もう一方の車では後部座席に知世が一人で座っていた。茉莉の采配で知世と一緒の車になることになった哲平は知世と後ろの席に乗ろうとしたが、知世が前の席にしなさいよと言うので仕方なく助手席に座ったのだった。
 「後ろじゃなくていいのか、哲平?」
 助手席に乗り込んでくる哲平に優弥が気を利かせて訊ねる。
 「バカ、何言ってんだよ。お前一人に前に乗らせて、二人で後部座席っておかしいだろっ。」
 「俺は別にどっちでも構わないんだけどな。」
 「俺が洞爺湖までちゃんとナビゲートしてやるからよ。道、間違えねえようにな。」
 「お前じゃあるまいし。ま、いっか。」
 本当は哲平としては後ろの席に知世と二人で乗りたかったのだ。さっきしそびれたことのリベンジをしようと密かに思っていたのだった。それは後ろの席でこっそり知世の手を握って気持ちを確かめることだった。それで拒まれなかったら、優弥が運転している隙に、知世の唇をさっと奪う。そしたら夜にはホテルを知世とホテルを抜け出してどこかで・・・とそこまでシナリオを考えていたのだった。しかしそのプランは知世にあっさりと断られてしまったのだった。
 「さっきのサイクリングではいい感じだったみたいだけど、例のアレ、知世に頼んだのか?」
 突拍子もなく出て来た優弥の言葉に哲平は慌てる。哲平にもすぐに(筆おろし)という言葉が浮かんできたからだ。
 「な、何言ってんだよ。突然に。」
 「ねえ、哲平。なあに? 例のアレって・・・。」
 「し、知らねえよ。何か勘違いしてんだろ、優弥はよう・・・。」
 「ふうん・・・。」
 意味ありげな優弥の言いっぷりと哲平の慌てぶりに、何か感じるものがあったが知世は何も気づかない振りをすることにした。

知世

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