朝のラブホ

妄想小説


男女六人 卒業旅行



 三十九

 チチチっという小鳥の囀りが遠くで聴こえた気がした。薄く目を開くと辺りがぼおっと明るくなっている。
 (あれっ、いつのまにか寝込んでたんだわ。)
 シーツの下でそっと胸元に手をやる。バスローブがきっちり巻かれていた。下半身にも手をやって確かめる。
 (裸・・・じゃなかった。)
 首を回して隣をみる。優弥の後頭部が見える。やがて「うーん。」という声がしてもぞもぞ動き始めた。玲子が動く気配で起きたらしかった。
 「ん? 朝か・・・?」
 「うん、そうだよ。おはよう、優弥。」
 「ああ、おはよう。」
 「あの、わたし。着替えるから、こっち見ないでね。」
 「ああ、待って。じゃ、俺バスルームで髭剃ってくるから、その間に着替えちゃいなよ。」
 「分った。ありがとう。」
 ベッドから起き上がった優弥が上半身は裸で腰にバスタオルだけ巻いた格好でバスルームに入って行く後姿を見送る玲子だった。

 「あーっ、ねみーなあ。優弥よ。俺、腹が減っちゃって早く目が覚めちまったよ。考えてみたら、ゆうべから何も食べてねえもんな。」
 「ああ、だけど仕方ないだろ。さ、早く行こうぜ。朝、一番で来てくれるようにレッカー頼んでんだからさ。」
 「ああ、そうだったな。琢也たちは?」
 「もう下で待ってる筈だ。」
 ホテルには他に泊った客は居なかったらしく、駐車場には女の子たち三人と琢也しか居なかった。
 「おう、どうする? 車一台に皆は乗れないからなあ。」
 「そうだな、琢也。女の子たちにはここで待ってて貰うか。」
 「あら、嫌よっ。ラブホテルの前で女だけで待ってるなんて。誰かに見られたら恥ずかしいわ。」
 「じゃ、どうすんだよ。茉莉?」
 「琢也に運転して貰って、私たち先に行ってレッカー車を待つわ。側溝から車出して貰ったら、そっちに乗り換えて待ってるから、琢也にもう一度迎えに来て貰いなさいよ。」
 「大丈夫かな、そんなんで。」
 「ああ、大丈夫だよ、哲平。レッカー車にはクレーンが付いてるから男手はなくても車は持ちあがる筈だからさ。俺と哲平で待ってるから琢也、女の子たち連れてまず行ってこいよ。」
 「わかった。じゃ、あとで迎えにくる。さ、皆んな。乗って。」
 琢也が女の子たちを乗せて車を出すと、残された優弥と哲平は駐車場の脇の大きな石に腰を降ろす。
 「どうだった、哲平。茉莉とはやれたのか?」
 「そんなこと、教えられっかよ。お前はどうなんだよ。玲子を抱いたのか?」
 「ふふふ。さあな。あー、腹へったなあ。」
 「ちぇっ。誤魔化しやがって。まあ、いいさ。そのうち玲子に白状させるからよ。」
 お互い腹の探り合いでは本当のところは判らないと諦めるしかなかったのだった。

 「でも、良かったな。側溝から引き揚げて貰うだけで車もちゃんと動いて。」
 迎えにやってきた琢也からレッカーが車を引き揚げると、ちゃんと自走出来ることが判り、傷も大したことがなく旅行を続行出来そうだと報告を受けて安心した優弥と哲平だった。
 「一時はレッカー車に持ち上げられたまま、支笏湖まで行くのかと思って、どうなるかと思ったぜ。ちょっと恥ずかしいもんな。まるで俺が事故起しましたって言ってるみたいだし。」
 「哲平。実際、事故起こしたのはお前だからな。」
 「だってあれは茉莉が急ブレーキ掛けるからよお。」
 「嘘だよ。お前のせいだなんて思ってねえよ。どうする、これから先。お前、運転するか?」
 「あ、暫くは勘弁して貰いたいな。」
 「茉莉もそう言ってた。山道はやっぱり怖いって。支笏湖までは優弥が茉莉に代わって運転しろよ。俺も哲平に代わって運転するから。」
 「ああ、構わねえよ。哲平も、それでいいだろ。」
 「おう、任せたぜ。琢也。じゃ、支笏湖までは同じ面子ってことだな。」
 その後、事故現場で待っていた女性三人と合流すると、昨晩と同じメンバーのまま、琢也と優弥の運転で六人は支笏湖へ向かうのだった。

玲子

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