妄想小説
男女六人 卒業旅行
五十八
茉莉はまだ裸の肌を優弥と合せていた。優弥は果てる直前に茉莉から身体を離した。
「あ、いや・・・。」
茉莉が思わず優弥の身体を引きとめようと両手で優弥の背中を抑えたが、もうそのモノは茉莉の身体から抜き取られていた。
「何も付けてないからさ。」
優弥が言い訳のように言う。
「多分、安全日だったと思うからよかったのに・・・。」
茉莉はシーツの中でまだ硬さを喪っていない優弥のペニスを探りあてると、思いっ切り握りしめる。
「このまま、出してっ。」
茉莉は自分の生温かい腿の上に優弥のペニスを押し付けるようにして激しくしごく。
「うっ・・・。」
温かい迸りを腿の上に感じて、茉莉も満足する。優弥と茉莉が深い溜息を洩らしたのはほぼ同時だった。
「ねえ、優弥。もしかして、わたしが来るって思ってた?」
迸りの痕を拭おうともせずに、下半身を互いに押し付け合ったままで茉莉が訊く。
「さあな・・・。」
「来ると思ったから、琢也に部屋を代わらせたんでしょ。」
何を言おうか、優弥は暫く思案していた。
「多分、お前を琢也に渡したくなかったのかもな。」
「え、嘘・・・?」
茉莉には優弥が咄嗟に吐いた嘘だと思ったが、それは将に茉莉が言って欲しかった嘘なのだった。
翌朝、六人は約束通りの7時に帯広ビジネスホテルのロビーに集合する。明け方まで一人部屋に代えて貰った優弥の部屋でシングルベッドで一緒に寝ていた茉莉も、何食わぬ顔でロビーに現れる。勿論、優弥も表情ひとつ変えない。
地下の駐車場で車割りを決めるのに、この日は優弥と琢也がそれぞれ運転することになる。
「じゃ、わたしは優弥の方の車にしていい?」
玲子がすかさず名乗りを上げる。それはどうみても琢也の車を避けているのに違いなかった。
「だったら、わたしは琢也の隣にする。」
そう言い出したのは茉莉だった。一瞬、優弥と茉莉の目が合う。
「じゃ、俺たちはそれぞれ別々に後部座席なんだな。」
哲平がまるで最初から知世と一緒に乗るつもりだったかのように不満そうに言う。結局、知世は茉莉と一緒に琢也の車に、哲平は助手席を玲子に譲って優弥の車の後部座席に収まることになる。
どちらの車の中も重苦しい雰囲気で、会話は弾まない。その日は茉莉が予約した阿寒湖畔のロッジまで行くことになっていたのだが、途中の釧路湿原に寄って少し歩いてみようと言うことになる。
「ねえ、釧路湿原でどう廻るかまだ決めてないでしょ。わたしガイドブックで調べたんだけど、湿原展望台っていうのと、それとは別の細岡展望台っていうのがあるらしいの。それから釧路川でのカヌー体験っていうのもあるようなの。それで提案なんだけど、皆んなで三箇所廻るのは時間の無駄だから向こうに着いたらまた三手に分かれて、三つのコースをそれぞれ廻らない?」
後部座席から提案した知世は、何とか琢也と玲子を仲直りさせようと考えていた。それだけではなく知世自身ももう一度、哲平と二人きりになるチャンスを作りたかったのだ。その意図は茉莉にも通じたようだった。
「じゃあ、私は優弥と湿原展望台っていうのに行こうかな。」
茉莉が必然的に琢也と玲子が残るように優弥とのドライブを申し出る。
「車は二台だから私と哲平がカヌー体験に行くから、私たちをそこで降ろして優弥と琢也で二台の車で別々の展望台までドライブに行ってきなさいよ。二時間後にまた落合いましょうよ。」
そうして琢也と玲子が二人っきりで話が出来るチャンスを画策したのだった。
「じゃあ、わたしたちはここで降りるから二時間後にまたここで落ち合いましょう。」
哲平と知世がカヌーの船着き場で車を降りると茉莉と玲子はそれぞれ車を乗り換える。
「いいのか、俺と二人でカヌー体験なんて。」
「いいの。それしか琢也と玲子の仲を元通りにする手はないんだから。」
「そうか。そういうことか。」
哲平は琢也と玲子の仲の事はあまり考えていなかったが、知世が自ら自分と一緒にカヌーに乗りたいと言い出したことのほうに胸が弾んでいた。
「じゃ、行くか。茉莉。それじゃあな、琢也。」
(がんばれよ)という言葉は胸に浮かんだが敢えて口にはしない優弥だった。
「玲子。じゃ、いいかい。」
「うん。」
琢也の言葉に玲子は(仕方ないから)とばかりに小さく頷くのだった。
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