妄想小説
男女六人 卒業旅行
五十一
その頃、二人は茉莉の運転で襟裳岬目指して車を飛ばしていた。
「いいのか、ずっと運転で?」
「ええ。北海道に来てからだいぶ運転に慣れてきたから。それに襟裳岬までは殆ど一本道だし。」
「よかったのかな、二人で先に出て来ちゃって。」
「いいじゃないの。置手紙、残してきたし。あっちの車でも四人は楽々乗れるんだから。」
二人で先に出ようと言い出したのは茉莉の方だった。朝早くに一人起きてぼおっとしている琢也を見つけて、女子で一番に起きた茉莉が提案したのだった。
「こういうグループ内でぎくしゃくしてる時は、一旦距離を置いてみるのがいいのよ。時間が経てば皆、冷静になって落ち着いてくるって。」
茉莉は琢也には玲子が戻ってきた時の様子は詳しくは話してなかった。だから、玲子は自分の呼掛けには応じなかったのだと思い込んでいたのだ。
女たちの準備が出来るのを待つ間、優弥と哲平は昨晩の事を話し合う。
「優弥はどう思う? 茉莉がゆうべ話してくれたことだけど。」
「ああ、野犬に襲われたって話だろ。玲子の服が少し破れてたろ。あれは男に襲われたって感じだったな。」
「野犬って、男って意味か。え、それって強姦ってこと?」
「ゆうべの事は暫く訊かないでくれって、そういう事だろ・・・。」
「うっ、まじかあ。でも、琢也はその間、一旦どうしてたんだろ。まさか、琢也が強姦相手ってことはないよな。」
「それはないだろ。帰って来た時、そうとう落ち込んでたからな。確かふられたみたいなことも口走ってたよな。」
「ああ、そんな事言ってたな。てことは、琢也じゃない誰かに犯された・・・? キャンプ場に居た三人組の男たちかな。」
「わからん。玲子の気持ちが落ち着いてきたら話してくれるだろう。それまでは、こっちからその話を切り出すのは無しな。いいか、哲平。」
「ああ、そりゃ勿論だよ。あ、知世と玲子が降りてきた。出発する準備をしよう。」
四人は優弥の運転で襟裳岬へ追い掛けることにした。琢也と茉莉が向かったのが襟裳岬だとしての話ではあるのだが。
「本当に襟裳岬で逢えるかなあ?」
哲平が不安そうに言う。
「それは行ってみなきゃ判らないさ。でも逢える気はしてる。俺の勘だけどな。」
「そっかあ。じゃ、優弥の事、信じてみるか。」
後ろの二人は無言で男たちの会話を聞いているだけだった。
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