美人女医と看護師に仕組まれた罠
七
実はしゃがんだ瞬間の明日香の膝の奥を注視していたのは他にも居たのだった。廊下で診断の順番待ちをしていた芦田権蔵と磯部留男の二人だった。その二人に診察室の中から親指を立てて振り向いて見せた川谷吾作の顔がニンマリとしていたのを、日菜子は見逃していなかった。
「ほら、ここ見てくださいっ。三日前からこの値ですよ。少し血圧を下げる薬を出しておきますから、しっかり呑んでおいてください。もう少し様子を見ていきましょう。」
今度はクリップボードは手渡さずに自分で持ったまま、血圧の値が記された箇所を指し示しながら優しく吾作に諭す明日香なのだった。
「先生、気をつけなくっちゃ駄目ですよ。」
「え、何? 日菜子ちゃん。」
午後の回診の最後の老人が診察室を出て行くのを見送った看護師の日菜子は、明日香の方に振り向きながらそう言ったのだった。
「さっきの川谷さんですよ。アレっ態とですよ。検診記録簿、落としたの。」
「え、そうなの?」
「先生のミニスカートの奥、覗く為ですよ。先生、不用意にしゃがんだでしょ。その瞬間、川谷さんの眼の色が変わったもの。」
「えっ? あの時、私スカートの奥、見られちゃってたのかしら?」
「多分、ばっちり・・・。その後、ニンマリしながら廊下で待ってた二人に合図してたわ。ほんとに油断も隙もないんだから。わたしなんか、検温の時に芦田さんにお尻触られちゃったんだから。」
「え、お尻を・・・?」
「そうなんです。それが巧妙なんですよぉ、手口が。体温計がうまく挟めないから手伝ってくれって言われて、脇の下に手を伸ばして差し挟もうとしたらポロリと落として。それでそれを取り出そうと前のめりになったところで、後ろからスカートの中に手を伸ばしていてぎゅって握られちゃって。最初は体温計を取るのに脇に手が触れちゃったのでびっくりしてつい手が動いちゃったんだと思ってたんですけど、どうもあれも態とみたい。最初から体温計、ポロッと落とすつもりだったんですよ、きっと・・・。」
「えーっ? それ、日菜子ちゃんの考えすぎなんじゃないの?」
「そーですかぁ? どうも、怪しいんですよね。あのお爺さん達・・・・。」
「俺の勝ちだな。あの先生、赤パンだったもんな。」
「くそうっ・・・。あの先生、清純そうだから絶対白だと思ったんだけどなあ。」
「俺は絶対、黒だと踏んでたのに。でもずるいよな、吾作は。白と黒以外って、何色だってありだろ。そっちの方が確率高いんじゃないのか?」
「何今更言ってんだよ。お前たちが絶対白とか絶対黒とか言うから譲ってやって白と黒以外にしてやったんじゃないかよ。でもまさかの赤パンとはなあ。ま、とにかく俺の勝ちだからお前たち、千円ずつな。」
「畜生。じゃ、今度はあの日菜子って娘のパンティの色を賭けるか。」
「いや、いや。すぐは拙いぞ、吾作。あの娘、先生がしゃがんだ途端にお前がスカートの中覗き込んでるのに気づいたみたいで怖い顔してお前の事、睨んでたからな。ちょっと今は警戒してる筈だ。」
「それは権蔵。お前があの子のお尻を触ったりしたからだろ。」
「へへへ。それもあるかもな。ああ、いい感触だった。ぷりっとしてて。」
「ちえっ。お前たち、いい思いしやがって。じゃ、今度は俺が挑戦してみるかな。権蔵と吾作には警戒してる筈だろうが、俺はまだ面が割れてないからな。」
「おい、留男。お前は何をしようっていうんだ?」
「そうだな。あの若い看護婦のおっぱいでもぎゅっと揉んでやるかな。」
女医のパンティの色で賭け事をしていたヘルパー達の間で通称エロ爺三人組と呼ばれている吾作、権蔵、留男の三人が談話室で新しくきた美人女医と若い女性看護師の噂話に花を咲かせているなどとは明日香も日菜子もまったく気づかないでいたのだった。
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