美人女医と看護師に仕組まれた罠
三十八
鬼塚の部屋から戻る途中、廊下で杖を突いて歩行の練習をしている川谷吾作の姿をみつけた明日香はつい声を掛けてしまう。
「川谷さん。ちょっと・・・。」
「おや、明日香先生。どうしました?」
明日香は辺りを見回して誰の姿もないのを確認してから川谷を廊下の隅の窓際の方へ手を貸しながら導く。
「ねえ。もし知ってたら教えて欲しいんですけれど。この間亡くなった芦田権蔵さんだけど、看護師の日菜子ちゃんとのことで何か言ってなかったかしら。」
「え、日菜子ちゃん・・・ですか?」
突然言われて川谷の表情がこわばったのを明日香は見逃さなかった。
「例えば、日菜子ちゃんを昔知ってたとか・・・。」
「さ、さあ・・・。ど、どうだったかな・・・。と、特には・・・。」
川谷の様子が突然しどろもどろになった気が明日香にはした。
「あ、じゃいいわ。何か思い出したらまた教えてね。邪魔したわね。」
明日香は川谷が何かを隠しているのだと確信したのだった。
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