日菜子当直

美人女医と看護師に仕組まれた罠




 十三

 日菜子たちが受け持っているのは殆どをベッドの上で寝たきりで過ごすことの多い患者が入っている病棟だった。そのそれぞれの個室は殆どの部屋が既に扉を閉じられ灯りも消されている。そんな中でまだ扉が開きっ放しになっていて灯りが洩れている部屋があった。
 (あれは・・・、確か川谷さんの部屋だった筈。)
 部屋の主を思い出しながら近づいていくと、開かれていた扉の中のベッドのカーテンも少し開かれていて、まだ起きていたらしい川谷吾作と目が合ってしまう。
 「あ、日菜子ちゃんじゃないか。今晩は当直かい。ああ、ちょうど良かった。」
 廊下を歩いているのが日菜子だと気づいて吾作が声を掛けてきたようだった。
 「川谷さん、まだ起きてらしたんですか?」
 「ああ、実は夜に備えて紙オムツを替えておこうと思ったんだが、もうヘルパーさんたちが帰ってしまっててね。」
 この老人ホームでは明日香医師や日菜子のような医療スタッフは医療行為のみを行うので、紙オムツの交換などはヘルパーたちが行うことになっている。しかしそのヘルパーたちも全て帰ってしまっている時間だった。
 「ああ、交換を頼むのを忘れたんですね。」
 「そうなんだ。それで自分でやってみようとしたんだが、紙オムツのテープを剥がすのに、場所が見つからないんだ。ちょっと手伝ってくれんかね。」
 「仕方ないですね。いいですよ。じゃ、ちょっと失礼しますよ。」

紙オムツ探り

 日菜子は吾作のベッドの横に詰め寄るとシーツの中に手を入れて交換する紙オムツを探る。
 「えーっと・・・。あれっ? きゃっ。」

ペニス触らせ

 日菜子が手を伸ばした紙オムツが留めてあるテープがある筈の場所に紙オムツが見つからず生身の肌が触れたのだ。しかも触れたのは勃起した肉塊なのだった。
 「川谷さん? もしかしてもうオムツ、穿いてないんじゃないですか?」
 「えっ? あ、そうか。そうだった。さっき自分で外してたんだった。忘れてた。」
 吾作は恍けた顔で日菜子ににやりとしてみせる。
 「もう、川谷さんたら。はいっ、これ。あたらしいの。後はご自分で出来るでしょ。」
 日菜子はベッド脇の戸棚から新しい紙オムツのパックを取り出すとベッドの上に置いて、もうそれ以上は手伝わないことにする。
 「おやすみなさい。失礼します。」
 そう言って吾作の部屋を足早に立ち去る日菜子だったが、手には生温かい勃起したペニスの感触が残っていた。
 (川谷さんたら、忘れた振りしてわざと触らせたんだわ。きっと・・・。)
 騙されたと思った日菜子だったが後の祭りなのだった。

 日菜子が詰めている当直室は所長の後藤睦男から聞いた話では、この特別養護老人ホームに通っていた鬼塚医師が特注で作らせたもので、ゆっくり休めるように防音になっているとのことだった。もっとも緊急時に外からの連絡が途絶えては困るので、専用のインターホンを通じてナースセンタやスタッフルームへ入ってくるナースコール他、警備室からの連絡も入ってくるような設備が整っているのだった。その為、当直者は安心して内鍵を掛けて仮眠を取ることも出来るのだが、日菜子は内側から施錠するのは気が引けてドアは解錠したままにしていた。

 病棟を一周してきた後は静まり返った当直室で日菜子は特にすることもないので、ベッドサイドテーブルに置かれた夜食のハンバーガーを食べてしまうことにする。
 (あら、結構ピリ辛なのね。・・・。うっ、か、辛いっ。)
 思いの他、香辛料が強めに効いていた為に日菜子は咽せそうになり思わず傍らの頼んでおいた飲料のミルクセーキに手を伸ばす。
 (ふぅーっ。辛かった。でもこの位刺激が強い方が眠くならなくていいのかも・・・。)
 ミルクセーキを呑んで喉の奥の辛みが収まったところで、もう一口ミルクセーキを喉に流し込む。
 (さて、腹ごしらえもしたし。暇だからカルテの整理でもしておこうかしら。)
 そう思って机の上の書類の束を手許に引き寄せた日菜子だったが、妙にカルテの文字が霞んで見えるので目をごしごし擦ってみる。
 (どうしたのかしら。今日に限って妙に頭がぼおーっとするわ。何だか眠くなっちゃったわ。先に少し仮眠しておこうかしら。)
 そう思って仮眠用にしてはやや大き目なセミダブルのベッドの方へ歩み寄ろうとしたが途中で足がもつれてそのままベッドに倒れ込んでしまう。

 当直室の外では、芦田権蔵、川谷吾作、磯部留男の三人組が時計を観ながら待機していた。
 「もうそろそろいい頃合いじゃないか、権蔵?」
 「ああ、そうだな。もう効いてきている筈だな。じゃ、踏み込んでみるか。おい。吾作、準備はいいか?」
 「おう。いつでもいいぜ。」
 権蔵は深く頷くとポケットから鬼塚医師から預けられた合鍵を取り出す。しかし鍵穴に差すまでもなく、ドアノブを押し下げると鍵の掛かってない当直室の扉はすんなり開いたのだった。
 「お、開いてる。日菜子ちゃんも不用心だな・・・。」
 そう言いながらも勝手に当直室に入っていく権蔵に続いて吾作、留男も後に従う。仮眠用ベッドの上では日菜子があられもない格好で正体なく寝入っているのだった。

明日香

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