病室の権蔵

美人女医と看護師に仕組まれた罠




 三十二

 「それじゃ芦田さん。また明日の朝、次の検温に来ますね。」
 「あ、ちょっと待って。日菜子ちゃん。ちょっとお願いがあるんだがね。」
 「あら、何でしょう?」
 「実はこのところ、夜ちょっと寝付けなくってね。何かいい睡眠導入剤を出してくれるように明日香先生にお願いしてくれないかな。」
 「ああ、睡眠導入剤ですかあ。わかりました。先生にお願いしときます。」
 さり気なく打った芝居だったが、日菜子はすんなり信じたようだった。しかしそれは鬼塚医師から権蔵に出された指示によるものだったのだ。

 「明日香先生。芦田さんが睡眠導入剤が欲しいっていうんですけど、どうしましょうか。」
 「あら、眠れないのかしらね。そうね・・・。だったらあまり強すぎないのがいいわね。いま、こっちの薬局に何があるかしら。日菜子ちゃん。処方箋のサインだけしておくから、薬局に行ってハルシオンかイソミタール、ある方を記入して貰って届けておいて。私、鬼塚先生が逢いたいってセンタに来てるらしくて呼ばれているので行かなくちゃならないの。」
 「わかりました。明日香先生。やっておきまーすぅ。」
 そう言って日菜子は明日香が医師の欄に署名だけして薬剤は未記入の処方箋を受け取っておく。しかし、その会話は別室で盗聴している鬼塚には筒抜けになっていたのだった。

 「あ、後藤君か。鬼塚だ。今、日菜子看護師が薬局に向かっているから、待ち受けて例のこと、頼んだよ。」
 「承知しました、鬼塚先生。うまくやります。」
 そう答えると所長の後藤は薬局で日菜子を待ち受けるのだった。

 「おや、日菜子ちゃん。どうしたの?」
 「あ、後藤所長。明日香先生に頼まれて睡眠導入剤を取りに来たんです。あの・・・、薬剤師の方は?」
 「あ、今私が特別な薬を調合して貰っているところでね。えーっと、何が要るんだって?」
 「ハルシオンかイソミタールの在庫があるほうです。まだ記入してないので。」
 「ああ、うちの在庫だったらイソミタールだね。いいよ。処方箋、貸して。あとで持っていってあげるから。」
 「あ、はいっ。じゃお願いします。」
 処方箋の紙を渡して立ち去ろうとする日菜子に追掛けるように所長の後藤が声を掛ける。
 「ちょっと待って。日菜子ちゃん。ここに日菜子ちゃんのサインもしておいて。」
 「ああ、そうでした。失礼しました。」
 後藤は日菜子に処方箋の紙を渡してサインさせるとさっとそれを取り上げる。しかしその紙は後藤が鬼塚医師の指示で日菜子が背中を向けている間にさっと摩り替えたものだった。
 (よし。うまく行ったぞ。これで鬼塚医師の指示どおりに明日香医師と日菜子看護師のそれぞれのサインが入った空の処方箋が手に入ったぞ。)
 すべては鬼塚医師の企みによるものだった。後藤所長は常々面倒を見て貰っている鬼塚医師の命令には逆らえないのだった。

 「権蔵。これがお前が日菜子に頼んでおいた睡眠導入剤だ。ただし本当には要らない薬だろうから箱だけで中身は空っぽだ。机の抽斗にでも入れて置け。日菜子には後藤所長から直接届けて貰ったんだと話しておけ。そしてこっちがお前が本当は欲しかった例の薬だ。」
 しあわせ特別養護センタの自分専用の特別室に権蔵を呼びつけた鬼塚医師は事前に手に入れていた薬を権蔵に手渡す。
 「服用するときは量に気をつけるんだぞ。ほら、この写真を見て見ろ。どうだ。欲情するか?」
 鬼塚は先日、吾作に全裸の状態の明日香を全裸に剥いて大きく股を開かせた写真も見せる。
 「おおっ、こ、これは・・・。」
 「どうだ。この女としてみたいか?」
 「も、勿論ですとも。この女医さんとやれるんなら死んでもいいですよ。」
 「だがな。危険は多い。本番をするとなると、相手もある程度は意識がなければ出来ないからな。幾らその薬でビンビンになっていたとしてもな。」
 「そ、それで。どうするんです。この間みたいに麻酔薬で眠らせたんじゃ駄目なんですよね。」
 「ようく聞いておくんだ、権蔵。まず手筈はこちらで整える。但し使うのは短期間で目覚める浅い麻酔薬だ。女は抵抗出来ないように脚を開かせた状態で括り付けておく。目隠しもして誰が現れたのかも分からないようにしておく。女が目覚めたところを見計らってお前が部屋に入る。勿論事前に例の薬は服用しておくんだぜ。女をイカせるか、お前が果てるところまで行ったらこの間と同じハンカチに浸み込ませた追加酔薬で再び眠らせてお前は立ち去る。後はこっちでやっておく。女は目覚めた時には普通に服を着てベッドに寝ているので、変な夢を見たとしか思わないって訳だ。どうだ、要領は理解出来たか?」
 「ほ、本当にやれるんですね、先生。」
 「それはお前次第だ。くれぐれも気づかれないようにな。」
 「先生。こんどの明日香先生の当直が待ち遠しくて仕方ないですよ。この薬はその日の為に大事に取っておきますから。」
 「そうだ。無駄遣いはするなよ。オナニーなんかで使っちゃもったいないからな。」
 「勿論ですとも。大事に、大事に取っておきますからって。」
 権蔵は明日香先生に所望して叶わなかった薬を手に入れられた上に、それを使う機会を鬼塚医師が用意してくれるというので夢のような心地のまま、特別室を後にしたのだった。
 「ふふふ。後は吾作に明日香を縛って放置しておくやり方を指示するのみだな。」
 鬼塚の悪だくみは着々と進んでいったのだった。

明日香

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