美人女医と看護師に仕組まれた罠
四
「それでは皆さん、こちらに集合してください。」
飛鳥井総合病院が傘下の施設として経営する老人ホーム、しあわせ特別養護センタの所長である後藤睦男は、週初めの早朝、スタッフルームに全員を集めるとその日の朝礼の中で二人の新規赴任者を紹介する。
「えーっ、こちらは今度、飛鳥井総合病院の方から我がしあわせ特別養護センタに専属医として派遣されることになった如月明日香先生と、その助手の桜井日菜子看護師です。飛鳥井総合病院からはこれまで鬼塚先生に巡回で来て頂いていましたが、老人介護医療の充実という飛鳥井病院の方針に従って、当面は如月先生と桜井看護師に常駐の形で専属で勤めて頂くことになっています。」
主に老人介護のヘルパーたちで構成されるこの老人ホームのスタッフたちの間でざわざわとどよめきのようなひそひそ話が囁かれ始める。
「飛鳥井総合病院から派遣されました如月明日香と申します。専門は内科医ですが、こちらではすべての医療行為の初動診療を緊急救命の形で受け持たせていただくことになります。宜しくお願いします。えーっと、じゃ、日菜子ちゃん。」
「あっ、明日香先生と共にこちらに派遣されることになった看護師の桜井日菜子と言います。慣れない職場で不安ばかりですが、どうか宜しくお願いしまーすぅ。」
明日香に続いてぺこりと頭を下げた日菜子たちにぱらぱらと薄い拍手が起こる。
「随分若い、美人の女医先生が来たものだわねぇ。あのいけすかない鬼塚って傲慢な医者に比べるとすごく感じがいいわ。」
「ありゃ、男性の老人たちから人気が出るわねえ。」
「あの看護師の子も可愛いじゃないの。ちょっとスカートが短すぎるけど・・・。」
「あれじゃあ、すぐにエロ爺じいたちの餌食になっちゃうわね。スカート捲りとかお尻触りなんか得意なのがいっぱい居るからねえ。」
「あら、さっきチラっと見えたけど、あの女医さんだって白衣の下はかなり短いスカートだったわよ。」
「そうなの? 確かにスタイルは良さそうだし、脚も綺麗そうね。注意しておいてあげたほうがいいかしらね。」
「やめときなさいな、余計な事。エロ爺じいたちから恨まれるもとだから。年寄りだからって油断しちゃ駄目ってことは、自分で経験して学ばなくちゃ・・・。そういうのが総合病院みたいなデカい組織じゃ学べない現場の知恵なんだから。」
「そうねえ。ちょっと可哀そうな気もするけど・・・。」
そんな話が年配が多いヘルパースタッフたちの間で交わされていたことは若い女医と看護師の二人には知る由もないのだった。
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