スマホ日菜子

美人女医と看護師に仕組まれた罠




 四十二

 「川谷さん。正直に答えて頂戴。この間も訊いたけど、亡くなった芦田さんが日菜子ちゃんが秘密にしてたことを何か握っていたんじゃないかっていうこと。貴方何か知ってるわよね。」
 川谷吾作を見つけた明日香は誰も居ない診察室へ車椅子ごと連れてゆき、内側から施錠した上で吾作に詰問したのだった。
 「まいったなあ。そこまで知られちゃったのかあ。先生、これは俺が喋ったって言わないでくださいよ。実はこれです。」
 吾作は明日香にスマホで撮った一枚の写真を見せる。何かの写真を更に上から撮影したものらしかった。
 「こ、これは・・・。」
 明日香は思わず絶句する。そこに写っていたのはまぎれもなく日菜子が全裸で股間を露わにしたまま写されている緊縛画像だったのだ。
 「権蔵の奴、昔通っていたSM倶楽部の知り合いからその元写真を入手したらしくて、すぐにこれは看護婦の日菜子のだと気づいたらしいんですよ。おそらく昔、日菜子ちゃんがそういう関係の店でモデルのバイトか何かしてて、その時撮られたものなんでしょう。現物はさすがに貸してくれなかったんで、権蔵が見ていない隙にさっとスマホでスクショしたんですよ。」
 「あ、芦田さんは、この写真を使って日菜子ちゃんを脅していたのだと・・・?」
 「多分、そうでしょうね。俺の言うことなら何でもあの娘は聞くんだからって豪語してましたから。」
 「ああ、何てこと・・・。いいこと、この事は誰にも言っては駄目よ。わかったわね。」

 「ああ、日菜子君。やっぱり明日香先生だったよ、芦田さんにバイアグラを渡したのは。明日香先生のサインのある処方箋が出てきたのだ。」
 同じように、看護師の日菜子は再び所長の後藤睦男に呼び出されていた。
 「え、そんな・・・。まさか、そんなことを明日香先生がするなんて。信じられませんわ。」
 「しかし現実にそういう処方箋が出てきたのだからねえ。私も明日香先生が自分から進んでそんなことをするなんて思ってないよ。おそらく明日香先生は芦田氏に発覚しては困る秘密を握られていたんだろう。それで言う事を聞くしか仕方が無かったんだよ。」
 「でも脅したとしても、明日香先生にそれを強制的に書かせたのは芦田さんなんでしょ? バイアグラを呑んだのも芦田さんが自分で呑んだ訳でしょ? だったら罪は全部芦田さんにあるんじゃないですか?」
 「私もそう思いたい。しかし現実問題、医師が患者の基礎疾患を知りながらそんな薬を処方したんだとなれば、世間は許すまい。いいかね、日菜子君。明日香先生の書いた処方箋はもう処分してある。芦田さんだってもう亡くなっているんだ。だからこのことはもう蒸し返してはならんのだ。君は知らなかったことにしてくれ。勿論、この事を明日香先生に質すのも駄目だ。」
 「そうして秘密にしておけば、明日香先生は罪には問われないのですね。」
 「ああ、そういう事だ。君の胸の中だけにしまっておいてくれ。」

 日菜子にはどうしても本当の事だとは信じられなかった。それで妙な素振りを見せた磯部留男にもう一度確かめることにしたのだった。

 「ね、磯部さん。もう一度外に散歩に行きません?」
 「君が車椅子を押していってくれるのかね?」
 「ええ、そうですよ。」
 「じゃ、お願いしようかな。」
 磯部留男と看護師の日菜子は再びしあわせ特別養護センタのひと気のない庭の奥まで出て行ったのだった。そして辺りに人が居ないことをしっかり確認してから日菜子は心に決めていたことを切り出したのだった。
 「ねえ、磯部さん。この間、訊いたことだけど。」
 「ん? 何かな・・・。」
 「芦田権蔵さんが明日香先生のことで知ってたことって何なんですか? 磯部さんは知っているんでしょう?」
 「ううっ・・・。そ、それは・・・。」
 「何か明日香先生が知られたくないことを芦田さんが知ってしまったっていう・・・。」
 「そこまで分かっているのか。ならば仕方ない。実は、明日香先生は以前にちょっといかがわしいところで働いていたことがあるんだ。時期は大分前らしいんだが。」
 「いかがわしいところ?」
 「つまりその・・・。所謂秘密のSM倶楽部ってやつだ。そういうところではある行為をして写真を撮らせたりすると高額なギャラになるらしいんだ。勿論、そういう写真とかは世間に出回ることは普通は無いんだが、偶々権蔵、あ、芦田さんの事だが、昔そういう場所に出入りしていてそこで知り合った友人からある写真を見せられたそうなんだ。」
 「ある写真って・・・? まさか明日香先生の・・・ですか?」
 「こういうやつだ。」
 留男が自分のスマホを出して一枚の画像を見せる。

明日香

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