妄想小説
思春期
五十八
氷室の逮捕から数日経った日の放課後、二人以外誰も居ない美術室で琢也は茉莉子をモデルにしてデッサンを描いていた。
氷室が撮影した夜の授業のビデオは、亨が氷室から預かっていたのだが、中身は観ないで警察に提出され証拠として押収された。安斉マリアが撮られた巾着縛りの写真もプレハブ小屋から無事回収されて押収された。亨は起こったことを全面的に供述し、捜査に協力したということで少年院送りは免れたものの、県外の親戚に引き取られることになって転校していった。
薫は一旦は退職願を提出したものの、校長からの熱心な翻意要請に最後は応じて学校に残ることになった。一方の磯部純一の方は本人の強い意志で依願退職となった。
「ねえ、琢也クン。」
「うん、なんだい。」
琢也はデッサンの手を止めずにモデルの茉莉子の方を観返す。
「私、性欲って分っちゃった。最初はあのプレハブ小屋で縛られておしっこが洩れそうになった時、静子夫人のようにだんだん飼いならされて陶酔感に溺れるようになるのかと思ったけどそうじゃなかった。私が初めて本当に性欲を感じたのはその時じゃなかった。」
「ふーん、何時だい?」
「琢也が倒れているのを必死で智花さんが介抱してるのを見た時よ。私、初めてあの時、琢也に抱かれたいと思った。」
「ん?」
「嫉妬よ、多分。智花さんが必死で琢也の事を抱き起そうとしているのを見た時に、あそこがじーんとなったの。ついオナニーしちゃったわ。性欲って、好きっていう気持ちがないと駄目なのね。セックスをしてみたいだけじゃ、性欲は起こらないんだわ。」
「ふーん、なるほどね。」
「琢也はどう? 智花さんとわたしとどっちに性欲を感じる? ま、聞くまでもないか。」
琢也はそれには答えずにただ黙々とデッサン用の木炭を動かし続けるのだった。
完
先頭へ