妄想小説
思春期
三十四
店に着くと、わざわざ外からよく見える窓際のテーブルを所望する。窓を向いて座るのはさすがに躊躇われたが、外の様子も確認したいので、横を向いて顔だけ外の交差点を見張ることにする。
約束の時間になって薫は交差点の隅にある人影を確認する。帽子の下にサングラスを掛けてマスクまでしているが、背格好からあの男に違いないと確信した。薫はわざと椅子から立ち上がり、窓際に寄って立って自分が言われたとおりに従っていることを外からも確認出来るようにする。交差点の男も明らかに二階のこの店の窓ガラスのほうをちらちら見ているのが確認出来る。
男が店に入ってきて自分の方に近づいてくるのを見て薫は自分の勘が間違っていなかった事を確認する。男は挨拶も無しに薫のテーブルの反対側の席に着く。
「ちゃんと要望どおりミニスカートで来たわよ。これで御満足?」
薫は忌々し気に男に言ってみる。男がサングラスの下でニヤリとしたのが分かった。
「随分大胆なのね。あんな事をしておいて、よくのうのうと私を呼び出せるわね。」
それは暗に、いつでも訴えられるのだという事を篭めたつもりの発言だった。男はそれを察したようだった。
「訴えることが出来るんだと思っているなら、いつでも訴えてみるんだな。俺も警察でどんなことをしたか、事細かに話してやるよ。それが望みならな。」
「そんな事したらどうなるかわかってるの?」
「お前が恥ずかしい目に遭うだけさ。だってお尻の穴に突っ込まれたものを、次は口の中で咥えたんだからな。」
男が声高に言うのを聞いて、薫は慌てて辺りを見回す。
「ちょっと、大きな声を出さないで。そんな話、ここでしないで・・・。」
「ほら、な。困るだろ。幾ら俺が本当の事を白状したって、その後でいやあれは作り話ですって言ったら、何の証拠もないんだ。警察は起訴も何もできやしない。けど、警察だってお前がされたって話は信じて想像はするだろうな。」
「なんて卑怯なの、あなたは・・・。」
男の周到さは、薫の想像を超えていた。
「なんでミニスカートなんか穿かせたの?」
「お前が服従する気があるか確かめるためさ。案の定、そういうつもりで来たみたいだな。」
「そういうつもりって・・・。」
「お前は俺の言うことを聞いて服従するのさ。」
「あの写真で脅してるつもり? あんなの別にどうってこと、ないわ。」
「お前はそうかもしれないが、お前の教え子はそういう訳にはいかんだろ。」
「え。・・・、教え子? あなた、まさか・・・。」
「茶巾縛りってのは、やっぱりセーラー服じゃなくちゃな。お前のあれは茶巾縛りまで行ってないからな。」
「あなた、やっぱりウチの子をあんな目に遭わせた張本人だったのね。」
「あの娘、何て言ってた? どうせ聞き込みはしたんだろ。」
そう言われて薫はマリアがきっぱり否定はしたものの、もし自分で、そのことが明るみに出るような事があったら首を括ると言っていたのを思い出した。
「うっ。くっ・・・。」
「お前の立場がどういうもんか、よく分かったみたいだな。それじゃ、試しにまず俺の命令を聞いてみるか。」
「わ、わたしに何をしろと言うの・・・。」
男がサングラスの向こうから喫茶店のガラステーブル越しに自分のミニスカートから剥き出しの太腿をいやらしい目で見つめているのに気づく。
「手始めに脚を開いて貰おうか。」
「なんですって・・・。」
思わず声が高くなりそうなのを必死で堪えて小声で抗議する。
「聴こえなかったのかい。そのミニスカートの脚を開けって言ってるんだよ。」
男の声が大きくなりそうだったので薫は慌てる。
「もっと小さな声で話して。他の客に聞こえちゃうじゃないの。う・・・。わ、わかったわ。」
薫は観念して、他の客たちには見えない様に少しだけ膝と膝の間を緩める。
「もっとだ。それじゃパンツが見えないぞ。」
男は薫が言うことを聞かざるを得ないのを知ってて辱めようとしているのだと悟った。
「これならいいでしょ。」
辺りを見回して自分の方を見ている者が居ないのを確認してから脚を大きく開いてすぐ閉じる。
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