校長室謝罪

妄想小説

思春期



 四十

 薫が生徒に手を挙げたという噂は瞬く間に学校中に広まってしまった。薫のクラスの生徒から他のクラスの生徒へ、そのクラスの生徒から担任へ、担任からは同僚の先生と教頭に、そしてついには校長の耳にも入り、早速薫は校長室へ呼び出されることになってしまった。
 「本当なのかね、君が生徒に手を挙げるだなんて・・・。」
 「申し訳ありません。手を挙げたのは本当です。教師として冷静さを欠いていました。」
 「冷静を欠くって・・・。そんな動揺するような何があったって言うんだ。」
 生徒が教師のスカートを下から覗いてノーパンだと騒ぎまくったというところは教師の方には伝わっていなかった。
 「生徒たちを混乱させるような暴言を吐いたので、それを抑えようとしてつい・・・。」
 半分本当のような嘘を薫は吐いた。実際、薫が我を失ったのは本当にパンティを穿いていなかったからだ。それを気づかれないようにしなければならないと朝からそればかりが気になっていた為に、突然それを村中亨に指摘されてつい逆上してしまったのだった。しかしそれを校長に告げる訳にはゆかない。スカートの中を覗かれてノーパンだったと言われたなどと言えば、本当かどうか見せてみなさいと言われかねない。そうなれば益々立場は悪くなるのだ。
 校長はまさかノーパンを指摘されたのが事の発端だなどとは思いもつかなかったらしかった。それより保護者や教育委員会からの突き上げのほうを心配していたのだ。
 「とにかく君には教頭と一緒に保護者に謝りに行って貰うからね。判ってるよね。」
 「は、はいっ。申し訳ありませんでした。」
 薫は今はとにかく深く頭を下げるしかないのだった。

 すぐに教頭に連れられて村中工務店の自宅の方へ廻る。父親は現場に出ていて留守だったが、母親がインターホンで応対した。そのマイク越しの声も怒りで溢れている様子だった。
 「とにかく本人が気が治まらないようなので今はお会いすることは出来ません。お帰り下さい。」
 所謂門前払いを喰わされたのだった。顔も見せない相手に向かって薫と教頭は平身低頭の平謝りの姿勢を続けてすごすごと村中家を後にしたのだった。

 学校に戻って早々に校長に報告にゆく。
 「いいかね。早急に村中クン本人に謝って、とにかく本人から赦しを貰うのだ。そうでなければ話が教育委員会まで伝わったるすると、私の首だって危ないのだぞ。」
 「わ、わかりました。わたしが何とか致します。」
 当てもないのにそう言い切って校長室を後にした薫だった。

 学校を飛び出した亨はすぐさま兄貴分が寝泊まりしている飯場の氷室の部屋を訪ねた。氷室は亨から薫が逆上して手を挙げたという話を聞いて、思った以上の成果にほくそ笑む。
 「よくやったぞ、亨。お前にしちゃ、上出来だ。」
 「そうかなあ。言われた通りに万年筆を落とした振りをしてスカートの中を覗きこんだんだけど、本当は見えなかったんだ。でも、兄貴に言われた通りにノーパンだって叫んだら、吃驚するぐらい慌てて。あれって、もしかして本当にノーパンだったのかなあ。」
 「ふん、それはどっちでもいいことだ。あの先公が慌てたってのが大事なんだよ。いいか、亨。すんなり赦したりするんじゃねえぞ。」
 「あ、ああ・・・。それはいいけど、俺っ。あの先生に嫌われるだろうなあ。」
 本当は井上薫先生が好きな亨は、先生に嫌われることのほうを心配しているのだった。

茉莉子顔

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