O嬢物語

妄想小説

思春期



 四十五

 「ねえ、琢也クンは花と蛇の中で、どのキャラクタが一番好き?」
 「え、花と蛇の中? うーん、そうだな。やっぱり探偵の京子かな。」
 「へえ、京子のどんなところがいいの?」
 「ああ、結構腕っぷしが立つのに人質を取られて、それを救う為にあっさり投降して捕まってしまうだろ。本当は強いのに、悪い奴等にやられちゃうってパターンがぞくぞくするのかな。ま、ヒロピン物の典型ではあるんだけどね。」
 「え、ヒロピン・・・? 何、それ?」
 「あ、ヒロイン・ピンチの略だよ。正義の見方の女性ヒーロー、つまりヒロインがピンチに陥るっていう定番のパターン。男の子は小さい時からそういうパターンに嵌るんだよ。」
 「ああ。判る、わかる。本当は強いのに、縛られてて抵抗出来ないのよね。その抵抗出来ない口惜しさを感じながらいたぶられるっていうのに感じるんだ。」
 「お前はどうなんだよ。あんなかでどのキャラクタがお気に入りなんだい?」
 「わたしはやっぱり静子夫人かな。貞淑で清純なまま生きていこうとするのに、どんどん罠に嵌って貶められていくところ。それと後は文夫かな。」
 「文夫? そんなの、出て来たっけ。」
 「ああ、結構後ろの方の巻にね。恋人の美津子を救いに行くんだけど、やっぱり捕まっちゃって恋人の前で恥ずかしい部分を丸出しにされちゃうの。本当は強いってパターンじゃないけど、純愛をしようとするのに邪魔されて貶められていく。静子と似たパターンかな。」
 「へえ、随分先の方まで読んでるんだな。」
 「ウチの父ったら、全巻持ってるらしいの。あちこちに少しずつ隠してあるんだけど、それを少しずつ見つけてはこっそり持ちだしてるんだ。」
 「そのうち見つかって怒られるぞ。」
 「大丈夫よ。わたし、これでも慎重な方だから。」
 そんな話で盛り上がりながら渡り廊下を歩いて行く琢也と茉莉子に正面から近づいてくる姿があった。それにふと気づいた琢也が声を挙げる。
 「あっ・・・。」
 「え、知ってる人?」
 「ああ、小学校の時の同級生。」
 「へえ。じゃ私とは学校が違ったんだ。」
 いつの間にか智花がすぐ近くまでやって来ていた。
 「いやぁ・・・。」
 琢也がちょっと照れくさそうに会釈する。すると向こうも気づいた様子で、隣の茉莉子をちらっとだけ見て、会釈を返す。しかし、擦れ違ったと思うと途端に足早に去って行くのだった。
 「あ、琢也クン。ごめん。何か勘違いされたみたい。またね。」
 茉莉子は突然そう言うと、琢也を置いて、走り去った智花の方を追掛けて行くのだった。

茉莉子顔

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