プレハブ水平線

妄想小説

思春期



 四十九

 茉莉子と智花の作戦は早速その日の放課後に実行されることになった。昼休みの終り頃、智花が村中亨に「放課後、井上先生のことで話したいことがあるんだけど」と誘うことにしたのだ。普段、女の子から声を掛けられるなどということは殆ど無い亨は興味深々で喰いついてきたのだ。智花は隣の校舎の窓際で待つ茉莉子のほうへ指でOKサインを送るのだった。
 放課後すぐに茉莉子はひとりで河川敷に向かう。普段からひと気のない場所だけに、その日もしいんと静まり返っていた。暫く誰もやって来る気配がないのを見計らってから茉莉子は行動を開始する。
 プレハブ二階建ての小屋は、一階は資材等の倉庫で、二階に氷室が寝起きしているらしかった。茉莉子は前に亨がやってきてそこへ入り込むのを目撃した時と同じ様に、外階段からさっと二階へ上ると音を立てないように扉を開けて中に忍び込んだのだった。
 元からお転婆な性格の茉莉子にとって、こういう場所に忍び込むのは得意中の得意だった。小学生の頃、かくれんぼ遊びでも誰にも見つからないで隠れ通せる自信があったのだ。
 二階の部屋は殺風景だった。年中敷きっ放しらしい布団が一組と、薬缶や鍋など最低限の調理道具やカセットコンロぐらいしかない。何か隠せる場所はないかと見渡した茉莉子の目に付いたのは古ぼけた事務机ぐらいだった。工事現場として使っていた際に、伝票や帳簿などを付けるのに使われていたものらしかった。
 (何かあるとすれば、あの机の抽斗ね。)
 見当をつけるとゆっくりと近寄っていく。古いものなので抽斗は軋んで音を立てるので、茉莉子はゆっくりと抽斗を引いて行く。古い新聞や雑誌が乱雑に突っ込まれていたのだが、その下から何やら一葉の写真が出てきた。その写真を観て、茉莉子ははっと息を呑む。
 奇妙な格好をしているが、明らかに女生徒を撮ったもので下半身はパンティを丸出しにした裸の脚が露わになっている。上半身は顔まで何かで包まれるように隠されているが、暫くみていて捲り上げたスカートを頭の上で結んであるのだと漸く判る。
 (これが巾着縛りなのね・・・。)
 暫く前に、同じ学校の女生徒が『巾着縛り』という虐めの処刑に遭って、公園で晒し者にされたという話を茉莉子も聞いていた。写真も出回っているのだと聞いていたが、茉莉子自身は写真は見ていない。が今、目にしている一枚がその写真であるのは間違いないと確信した。
 この写真と井上先生が何か関係があるのだろうと茉莉子は推理する。
 (そうだ。ビデオがどうとか言ってたっけ。何処かにビデオがあるのだわ。)
 今度はビデオ捜しに取り掛かる。下の方の抽斗は錆びついていて、なかなかすんなり開かない。茉莉子が何とか騙しだまし、一番下の抽斗を開けようとしているその時だった。
 「誰か居るのか? 亨かあ。」
 その声に茉莉子は凍りつく。夜まで帰ってこない筈の氷室に違いなかった。逃げ場所はその氷室がやってきた扉しかない。咄嗟に隠れるところはないかと見回すが、そんな場所はどこにも無かった。
 ガラリと音がして氷室が現れる。
 「お前、誰だ。ここで何、してるんだ?」
 茉莉子は咄嗟に何か上手い言い逃れは出来ないか、頭を巡らす。しかし捕まってしまうかもしれないという恐怖心が、頭の回転を鈍らせてしまうのだった。いちかばちかで茉莉子は突然ダッシュして氷室の横をすり抜けて扉の方へ向かって走り出す。しかしさすがに氷室の手のほうが素早く、しかも力強かった。
 「や、やめてっ。放してっ・・・。」
 「そうはいくか。何しにこんなところに忍び込んだのか吐くまでは逃がしはせんぞ。」
 氷室は茉莉子の腕を背中側で捩じ上げて自由を奪う。工事現場で使う虎ロープが部屋の隅に束になっている。それを手繰り寄せると茉莉子が両手を背中で縛られてしまうまで、たいした時間はかからないのだった。

茉莉子顔

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