妄想小説
思春期
二
「ねえ、琢也ク~ン。部活はどうするの?」
その日も、休み時間になってこの所、定位置となっている琢也たちのクラスがある教室の廊下を出てすぐ繋がっている体育館への渡り廊下にある水飲み場のコンクリートの水盤に腰を掛けていると、何時の間にか隣にやってきた小川茉莉子が同じ様に水盤に腰掛けると話し掛けてきたのだった。
「部活かあ。運動部はあまり好きじゃないからなあ。美術部にでも入ろうかな。」
「え、美術部? ボク、もう入ってるんだよ。美術部に。よかったら部室、案内しようか。」
意外な答えが返ってきて、琢也も目を白黒させる。てっきり文学部辺りに入っているんだろうと思っていたからだ。
「あれっ? 文学部なんじゃないかと思ってた。」
「ああ、文学部は嫌いな現国の中村が顧問だからね。樫山クンが何で美術部?」
「この前、偶々油絵の道具を買って貰ったんだ。せっかくあるからさ。」
「じゃ、今日の放課後。ボクが部室、案内するよ。」
その日の放課後、早速琢也は小川茉莉子に美術部の部室に案内して貰うことになった。美術部の部室があるのは琢也たちのクラスがある校舎の更に北側の一棟の中で、学校の中では最も古い校舎らしかった。木造平屋建てが主流だった昭和初期から時代は変って、昨今では鉄筋コンクリートの三階から四階建の校舎に移りはじめていて、琢也たちの通う中学でも一棟のみが既に鉄筋コンクリート建てに変っていた。しかし、美術部のある校舎は昭和初期に作られたらしい木造二階建てのサイディング張りの古い校舎で、二階にある美術室、および美術部部室でもある美術準備室にあがるには、ぎしぎし音を立てる古い階段を登っていかねばならない。校舎全体が古いこともあって、その棟で今でも使われているのは、1階の家庭科調理室と、2階にある美術室しかなく、他は既に空き教室になっていた。
「今日は部活のある日じゃないから誰も居ない筈よ。でもボクが部室の鍵を預かってるから大丈夫。ボクがしょっちゅう部室に行ってるのを知って、先輩の部長が鍵を預けてくれたんだ。」
自慢そうに話す茉莉子の後について、しいんと静まり返った古い校舎の二階へあがる階段を昇っていく琢己は、埃臭い校舎の匂いが却って落ち着ける空気であるのを感じ始めていた。
美術室につづいて部室である美術準備室は廊下の一番奥の突き当たりにあった。廊下の端までくると、茉莉子はセーラー服のポケットに部室の鍵を探る。
「あ、そうだ。今なら誰も居ないからこの間の約束、やって見せてあげる。」
そう言うや、(えいっ)という掛け声のもと、茉莉子は廊下の端の壁に向かって床に両手を突いて脚を挙げたのだった。
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