妄想小説
思春期
十六
体育館の用具室から上る演劇部衣装倉庫とその上の照明室での危ない体験をしてからというもの、琢也は茉莉子と必要以上に接するのを避けてきた。あまりにあけすけな茉莉子と一緒に居ると、どこまで自分達が行ってしまうのかちょっと不安になってきていたからだ。しかしそれはある意味、逆に琢也に茉莉子ともっと一緒に居たいという焦燥感を募らせる結果にもなっていた。そんな琢也の思いを知ってか知らずか、茉莉子の方が声を掛けてきたのだった。
「ねえ、琢也クン。この頃、わたしの事避けてない?」
「い、いや。別に。そんな訳はないけど・・・。」
いきなり図星を指されて琢也は狼狽える。
「そうなの? そうならいいけど。この間のこと、気にしてるのかなってちょっと心配で。」
「この間のこと?」
すぐに体育館の照明係部屋で射精してしまったことを思い出したが、それとは口にしなかった。
「あ、そんなには気にしていないんだね。よかった。ね、昼休みは部室に行かない?」
部室と聞いて、部活指定日の美術室は憂鬱だが、平日の昼休みに茉莉子と一緒に居るのはそんなに居辛くはないので、琢也も軽く頷いたのだった。
「ねえ。琢也って、団鬼六って作家は知ってる?」
団鬼六と聞いて、琢也はすぐにピンとくる。しかし、知っているというほどには本は読んでいなかった。それでも茉莉子に訊かれて知らないというのは癪に障るのだった。
「そりゃ、知らないことはないよ。」
「へえ。何でも知ってるんだね。実はボク、ついこの間、父親の書斎に忍び込んだ時、偶然その人の本、見つけちゃったんだ。本棚の奥にこっそり裏返して置いてあったんで、何だろうと思って引っ張り出してみたらそれだったの。」
琢也の方は、いきつけの古本屋で偶々見つけて立ち読みをしたのに過ぎない。しかしその内容は衝撃的なものだった。
「へえ。でもああいうのは、女の子が読むような類じゃないんじゃない?」
「え、どうして? 女の子はそういうの、読んじゃいけないの?」
「いや、そういう訳じゃないけど・・・。」
琢也が古本屋で偶々立ち読みした内容は、かなりエロいものだった。読んでいて下半身に勃起を憶えたのを記憶している。
「いけない本だと思う?」
「え、いけない・・・かあ。まあ、文学にいいも、いけないもないとは思うけど。」
琢也は一応、中立の立場を取ることにする。
「女って、縛られると感じるって本当だと思う?」
「なんだよ、藪から棒に。」
そう言いながらも団鬼六の有名な小説、花と蛇で遠山夫人が床の間に縛り付けられて辱めを受けるシーンを思い出していた。
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