体育館裏

妄想小説

思春期



 十一

 「琢也ク~ン。やっぱりここに居たんだ。」
 体育館裏で涼んでいたところへ琢也を捜して追掛けてきたらしい茉莉子が近づいてきた。
 「あれじゃ居にくいわよね、美術部。」
 「ああ、まさかあんなに女ばっかりだとはね。」
 「今年は他にも男子部員が入るって噂もあったんだけど、結局一人だけだったみたいね。部長はぐちゃぐちゃ言ってたけど大丈夫よ、私が適当に取りなしといたから。先生は褒めてたわよ、琢也クンのデッサン。」
 「ふうん、そう。」
 「わたしもいいと思った。わたしより全然、上手じゃない。先生もしょうがないって言ってたわ。男子ひとりじゃ居にくいって。でも、美術部辞めないでね。」
 「どうして?」
 「え、だってワタシ、琢也クンと同じ部で居たいから。部活は適当にサボっておけばいいわよ。」
 「そうだな。運動部は好きじゃないし、文化部は何処も女子ばっかだからな。」
 「ねえ、明日の昼休み。ちょっと付き合ってくれない?」
 「付き合うって・・・?」
 「いいから、明日。じゃ、またね。」
 そう言うと琢也をひとり置いて、茉莉子は去っていってしまうのだった。

 翌日、昼休みに早目に弁当を済ませるといつもの体育館への渡り廊下の水飲み場で待っていると、茉莉子が小走りにやってきた。
 「こっちよ。ね、一緒に付き合って。」
 茉莉子が案内したのはすぐ傍にある体育館兼講堂のステージ脇の昇降口だった。放課後なら何処かの運動部が殆ど使っているが、昼休みには誰も居らずしいんとしている。茉莉子は昇降口から体育館に入ると、すぐの所にある用具室の重たい扉を開く。体育館も用具室も立ち入り禁止という訳ではないが、誰も来ない場所に忍び込むみたいでちょっと後ろめたさを感じる。
 「ね、入ってみて。」
 用具室に先に入った茉莉子が首だけ出して琢也を誘う。琢也が続くと、埃っぽさに汗の臭いが混じって独特の空気がよどんでいる。積み重ねられた運動マット、跳び箱台、籠に入ったバスケットボールなどが並ぶ奥に梯子のような狭い階段がある。茉莉子が指差しているのはその階段だった。

茉莉子顔

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