妄想小説
思春期
三十
女子テニス部の顧問もしている磯部純一はその時、テニスコートで最後の練習を見てやった女子たちを見送ると、荷物を取りに部室へ一人で戻って来たところだった。てっきりもう誰も居ないと思って何気なく入った部室にぼおっと白く光る影があった。
「おや? 何だ、上原じゃないか。」
白くぼおっと光ってみえたのは、上原麗花のテニスウェアだったのだ。試合用の真新しいウェアで、短いスコートが眩しかった。
「あ、磯部先生。試合用の新しいウェアが出来てきたんで、ちょっと着てみたんです。どうかしら、似合う?」
麗花は双子の姉妹だが、理知的な感じがする姉の智花とは違って麗花の方は官能的で、どこかコケティッシュなところがあると日頃から純一は感じていた。姉が文学少女なのに対し、妹のほうはスポーツ好きで、純一が指導している女子テニス部の部員なのだった。
「ああ、とてもよく似合っている。可愛いよ。」
顧問のコメントに満足したのかにこっとすると、解けそうになった靴紐を直そうとする。膝を曲げないで靴紐に手を伸ばそうとするので、お尻のほうからスコートの中が覗きそうになるのをつい見てしまって純一ははっとする。
「ああ、その結び方じゃ駄目だな。すぐまた解けてしまうよ。貸してごらん。」
そう言って麗花を手近なベンチに座らせるとその前にしゃがみ込んでテニスシューズの紐を結び直してやる。目の前で麗花が短いスコートから大きく露出した太腿から伸びる膝を無造作に緩く開いている。
「ねえ、磯部先生。数学の井上先生が犯されたって噂されてますよね。」
麗花は磯部が密かに井上薫と付き合っているという話は勿論知っているのだが、そらっとぼけて聞いているのだった。
「え、あれは只の噂だろ?」
「へえ・・・。でも、犯された時、井上先生は縛られてたんですって。女の人は縛られたほうが感じるんですって。先生、知ってた?」
麗花の話につい恋人の薫が縛られている姿を想像してしまい、思わず純一は生唾を呑みこんでしまう。
「男の人も、縛られている女を見ると感じてしまうって本当なんですか?」
「ええっ? そ、そりゃあどうかなあ・・・。」
「麗花、縛られるとどんな気持ちになるのか一度経験してみたいんです。」
甘えるような言い方で、麗花が純一のほうを試すように見上げている。
「こらっ。そんな事言ってると、本当に縛っちゃうぞ。」
麗花はさっと辺りを見回す。
「ね、今なら誰も居ないから。ちょっとだけ縛ってみてっ。ほら、ここに縄跳び用の縄があるから。」
普段だったら、そんな挑発に乗る筈がないと思う純一だったが、昨夜薫を抱き損ねた不満が純一の内部にはまだ燻っていた。
「ほら。貸してみろ。」
(ほんの軽い冗談なんだ)
純一はそう自分に言い訳をしながら、麗花の華奢なしろい手首を握る。麗花がおとなしく両手を背中に回すのをみると、もう自分を止められなくなっていた。片側の手首に二重に回した縄跳び用の縄をもう片方の手首にも巻きつけると二つの端を括りつけてしまう。
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