河川敷の飯場

妄想小説

思春期



 四十七

 元から探偵ごっこのような事が好きだった茉莉子は、遠くから村中亨の事を智花に教えて貰ってから、亨が放課後よく通っているアジトをすぐに見つけだした。そしてそれはすぐに亨が兄貴として慕っている亨の父親が経営する工務店の見習い大工、氷室恭平がねぐらとして住み込んでいるプレハブの物置小屋のような建物だということが発覚する。その二階建てのプレハブは、その近くの河川敷傍の集合住宅の内装を亨の父親が請け負って工事をしていた際に資材置場として建てられたものだったが、工事が終わった後も氷室が棲む家がないからというので取り壊さずにその二階部分を寝起きする場所として貸しているものだった。工事用のトラックが行き来するので近隣の住民に支障がないようにと、住宅街からは大きな河の堤を隔てて河川敷側にあるので、普段から人通りも少なく、夜はひと気の無い淋しい場所でもあったのだ。
 「何か、亨たちが悪さをするのに都合が良さそうな場所ね。」
 茉莉子に最初に案内された時に、智花が洩らした感想だった。
 「そう言えば、井上先生って女子テニス部の顧問をしてる磯部先生と付き合っているって噂だったよね。」
 茉莉子は(だった)と過去形で言ってみる。最近、二人は別れたらしいというのも噂されていた。
 「それは私も聞いたわ。ただ、・・・。」
 智花は最後の言葉を濁した。それはそれに関連する噂のせいだろうと茉莉子も感じ取っていた。
 「やっぱり智花さんも聞いているのね。妹さんの麗花さんが代りに付き合ってるんじゃないかって話・・・。」
 「ええ、何となく聞いているわ。いつか本人に問い質してみようとは思ってるんだけど。ただ、あの子はいつも本当の事はなかなか言わないのよ。」
 茉莉子は智花の危機を救ったのが琢也だったことも長く姉に隠していたという話を思い出していた。
 「でも女子中学生と顧問の先生でしょ? 単なる噂なんじゃない。女子テニス部の中で可愛がられているだけかもしれないよ。」
 「なら、いいんだけど・・・。」
 そう言いながらも智花は嫌な予感を拭いきれないのだった。

 その日も妹の麗花はなかなか帰って来なかった。文科系の文学部に籍を置いている智花と違って、女子テニス部という運動部に所属している麗花は部活の練習もあるので、大抵は智花より遅く帰ってくる。しかしここ最近は更に帰りが遅い日が多くなった気がしていたのだ。
 小学校の時から、双子の姉妹の通例で、ずっと机を並べて子供部屋を共有していた。しかし中学に上ることになって、クラスが分かれることになったのもあって、納戸として使われていた部屋を整理して、姉妹それぞれに別の勉強部屋が与えられるようになったのだった。
 なかなか帰ってこない妹の事が気になって、智花は麗花の部屋をちょっとだけ覗いてみることにした。整理整頓していないと気が済まない智花と違って、麗花は何でも遣りっぱなしにすることが多く、部屋は雑然としている。
 そんな中でも智花の目に留まったのは、麗花の勉強机に付いている抽斗の最下段に紙片の先が挟まったまま閉じられていることだ。何事にも几帳面な智花にとって、書類を抽斗で仕舞う際に挟み込んでしまうなどあり得ないことだ。しかも大事な書類は同じ抽斗でも最上段にしまう物であって、最下段に書類を入れるなど有りえない。
 (もう、麗花ったらしょうがないわね。どうせ、零点でも取った答案用紙かなんかなんだわ。)
 そう思いながら入れ直しておこうと、抽斗を引いてみた智花だったが、それが思っていたような答案用紙ではないのにすぐに気づく。
 (何、これ…? え? これって・・・。)
 最後の所に磯部純一と署名のいれてある証文なのだった。しかもその内容たるや、智花がたまげるものだった。
 (『妊娠』って・・・。それって、そうなる可能性のあることをしたっていうことなの・・・?)
 文面にある『縛って』という言葉からは、強制的にされたとも取れる。しかし、妹の性格をよく知っている姉だからこそ分かることは、文面に書かれているのは真実ではないということだ。
 (磯部って、女子テニス部顧問の先生だし、井上先生の恋人だって噂されている人じゃない。)
 智花は噂で聴いた話で感じた嫌な予感が次第に現実味を帯びてくることに怖ろしいものさえ感じ取っていた。

茉莉子顔

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