妄想小説
思春期
五十六
「ううっ・・・。」
氷室が呻き声を挙げて薫の口の中で果てる。薫が目を瞑って口の中に放出された精液を、やっとのことで嚥下しようとするが、唇の端からつうっと白濁したものが糸を引いて垂れ落ちる。
「先生よ。どうも、やらされ仕事って感じで、真剣味が足りないようだな。先生がもっと真剣になるように、この小娘にも一発やってやるかな。」
「うっぐ。ぷふっ。だ、駄目よ。わたしが代りになれば手出しはしないって約束じゃないの。」
「そんな約束はした覚えはないぜ。俺は本来はこんなションベン臭い小娘は趣味じゃないんだが、真面目に奉仕しねえ先生が悪いんだぜ。な、お前も見てるだけじゃ、物足りないだろ。ここが疼いてるんじゃないか?」
薫から身体を放した氷室が反対側の吊られている智花の方へやってきて、露わにされている白いショーツの中へ手を突っ込もうとする。
「い、嫌っ。」
いきなり性器に触れられそうになって、強がっていた智花もさすがに悲鳴を挙げる。
「やめろっ。やめるんだっ。」
暗闇の中から突然聞こえてきた声に、吃驚した様子で氷室が目を凝らす。
「琢也、駄目よ。今、出てっちゃ・・・。」
後ろから茉莉子も氷室に向かって行こうとする琢也を押しとどめる。
「なんだ。何時の間に、二人も居やがるのか。誰だ、てめえら。」
「智花に勝手なことはさせないぞ。」
「大丈夫なの、琢也。こいつ、強そうよ。」
震えながら茉莉子がこわごわと小声で囁く。
「いいか、茉莉子。僕がここで食い止めておくからお前、走って逃げるんだぞ。」
「逃げるって・・・。どこへ?」
「体育館だよ。いいな。」
「おい、小僧。相手になってやるぜ。」
「駄目よ。樫山クン。そいつは少林寺を使うのよ。相手にならないわ。逃げて。」
身動きは出来ないながら事態を把握した薫も、咄嗟に樫山に注意の言葉を掛ける。
「茉莉子、走れっ。」
琢也は茉莉子を突き飛ばすように押しやると氷室の前に立って構える。その琢也の元へ氷室はじわり、じわりと近づいて来る。後ろで茉莉子が廊下を走り出ていく足音が響く。と同時に、氷室の鉄拳が琢也に向かってきた。
一発目は必死で横に飛びのいて逃れたものの、氷室の動きも素早かった。顔面にフェイントを咬まされて、両手で受け止めようとした肘の下を氷室の二撃目が擦り抜けていた。
「あううっ・・・。」
鉄拳をまともに喰らって琢也が崩れ落ちる。
「あっ、琢也クン。」
薫と智花が同時に声を挙げていた。
「畜生、あのアマっ。逃がさんぞ。」
倒れ込んだ琢也を踏み除けるようにして氷室は茉莉子の後を追う。深夜の学校に足音が響き渡る。
(体育館へ逃げろって・・・。そんな事言ったって、捕まってしまうわ。)
そう思いながらも、どうしたらいいか走りながら必死で頭を巡らせる。やがて体育館の建物が暗がりの中にぼおっと見えて来た。
(そうだ。用具倉庫の中だわ。)
体育館の中に駆け込むと、そのままステージ脇の用具倉庫の扉を一目散に目指す。
(どうか、開いていますように。)
祈りながら用具倉庫に辿り着くと、重い引き戸を必死でスライドさせる。その時にはもう氷室が体育館の中へ入ってきた足音がしていた。扉に鍵を掛ける余裕はない。そもそも用具倉庫は外からは閂を掛けることが出来ても、内側には鍵は付いていないのだった。
茉莉子は扉をロックするのは諦めて、演劇部の倉庫になっている梯子階段を駆け上がる。蓋には少なくとも中から掛けられるロックが付いているのだ。
茉莉子が演劇部倉庫に這い上って蓋を閉めるのと、氷室が用具倉庫に飛び込んできたのがほぼ同時だった。茉莉子が梯子階段を昇ったのを氷室はかろうじて見ていたようだった。氷室も追い掛けて昇ってくるが蓋がぴったり閉まっていて開かない。
下からどんどん突き上げてくる音を聞いていて、茉莉子は時間の問題だと悟る。すぐにもう一つの垂直の梯子を照明用の小部屋を目指して登ることにする。その時、以前に琢也に縛って貰うのに使った縄束が目に入った。それを掴むと必死で梯子を昇る。
照明用の小部屋から先はもう逃げ場がない。照明用の窓からステージに飛び降りることしか出来ないのだが、無事で済みそうな高さではない。部屋の真ん中あたりにある柱の一本に縄を通して二本にした縄を照明用の小窓からステージの方へ垂らすと茉莉子は覚悟を決めて縄を掴んだまま小窓から身体を乗り出す。
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