妄想小説
思春期
十二
「あの先に何があるのか観てみたくて。ね、一緒に冒険しようよ。」
何があるのか判らない場所は、さすがに一人で入ってみるのは躊躇われたらしく、琢也を誘ったらしかった。
「勝手に入っちゃまずいんじゃないか?」
そう言いながらも琢也も興味が湧いてきてもう昇ってみる気になっていた。
「一人じゃ怖いから一緒についてきて。」
そう言いながら既に茉莉子の足は梯子階段に掛かっている。
(え、お前が先に上るの?)
階段が急なので、後から昇ると茉莉子のスカートの中が覗いて見えそうなのだ。しかし茉莉子は一向に構わない風で、どんどん上へあがっていってしまう。
梯子を上がった先の天井は蓋のようなもので塞がれているようだった。
「ね、手伝って。」
茉莉子が蓋を押し上げようとしていたが、一人では重くてあがらないらしかった。琢也は上を見上げないようにして後について梯子を昇ると、茉莉子と同じ段まで上がる。梯子の幅は狭いので身体と身体が密着してしまう。
「結構、重いのよ。この蓋。」
茉莉子は一度蓋を開けてみようとしたらしかった。それで重くて開かないので琢也を誘ったらしかった。
「ちょっとそっちに寄って。うーん。あ、動いた。」
琢也が両手で力を込めると蓋は上にぱかりと開いた。その上に部屋があるらしかった。蓋を押し上げて開けると、今度は先に琢也が上によじ登る。
「来いよ。」
琢也が手を差し伸べると、茉莉子がそれに応じて手を握ってくる。茉莉子の手の温かみを感じながら琢也は両手で茉莉子を引っ張り上げる。
「わあ。ふうん。こんなになってるんだ。」
蓋のようになった小さな入口から用具室の二階の小部屋に入ると辺りを見回して茉莉子は感激している。
薄暗いが小さな明り取りの窓が付いているので真っ暗という訳ではない。古そうな木箱が幾つか置いてある。
「倉庫かなあ、ここは・・・。」
「あ、あっちにもまだ梯子がある。」
「ほんとだ。」
倉庫のような小部屋から更に上へ続く梯子は今度は垂直に昇る梯子になっている。
「ちょっと昇ってみよう。」
今度は琢也が先に昇ってみることにする。
「あ、ワタシも行くっ。」
茉莉子がついて来ようとしてるのにも構わずどんどん上がっていくと、三階に相当する部分にも蓋のような扉があって、今度は軽く開いたので押し上げて上の部屋へ上る。二階部分よりは更に狭い部屋で明り取りの窓もない。逆側に明り取りではない開口部があって琢也が覗くと遥か下に講堂のステージが見える。すぐに茉莉子も追付いてきて顔だけ出しているので手を出してもう一度引っ張り上げてやる。
「ここはどうも照明部屋みたいだな。ほら、あそこにスポットライトがある。」
琢也が指差した部屋の隅には暗がりの中に回転式の色フィルムがついた照明器具が置かれていた。
「ほんとだ。じゃ、さっきの部屋はきっと衣裳部屋ね。演劇部が使っていたのかしら。」
「そう言えば、この間あった部活説明会の時に演劇部っていうのは無かったから、今はもうないのかもね。昔、演劇部があったんだろう。」
薄暗い中ですぐ傍に茉莉子の息遣いが聞こえる。琢也は暗い中に二人っきりでいるのを初めて意識する。
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