妄想小説
思春期
三十五
「お願いっ。ここではもう赦して・・・。」
涙声になりそうなのを必死で堪えて男にそう頼み込む。しかし薫の(ここでは)という言葉が暗に他人の居ないところだったら何でもいう事を聞きますという服従の宣言になっていることに薫自身が気づいていなかった。
(なんとかしなくちゃ・・・。)
薫は男に弱みを完全に握られていて、自分の方には何一つ材料がないのを思い知らされた。自分の事だけならまだしも、教え子の秘密を握られていることが薫にとって強力なカードとなっていた。それがある以上、男の言うなりにならざるを得ない。
(いや。今は言うなりになる振りをしながら男の尻尾を掴むチャンスを待つしかない。)
薫は心の奥でそう固く決意したのだった。
男の要求は深夜の学校で個人授業をするというものだった。警備会社の巡回が終わる夜11時を廻った後で校舎にやってくるよう命じられたのだ。唯の個人授業をすればいいというものではないだろうことは想像がつくのだが、何をやらされるのかは皆目見当もつかなかった。
音を立てないようにゆっくりと自分の軽自動車を校内の駐車場にいれると、時計で11時を回っていることを何度も確認してから薫は車を出た。常夜灯が幾つか点いているだけの薄暗い校舎の中を、指定された自分が担任をしているクラスの教室を目指す。
教室には何も明りが点いてなくて、廊下の常夜灯の光が洩れてくるだけなので目を凝らしてないと暗がりにしか見えない。扉を音を立てないようにゆっくりと開けると首だけ中に突っ込んで中の様子を窺う。
「誰か・・・、居るの・・・?」
小声でそう呟くように訊いてみる。返事はないので、そのまま教壇へあがってみる。その時、強烈な眩しい光が突然薫を照らしてきた。教室の後ろにスポットライトが据えてあったらしかった。
(ま、眩しいっ・・・。)
薫は手で目を蔽って明りのほうを見やるが、逆光で却って何も見えない。
「よく来たな。待ってたぜ。」
明りのほうから聞き覚えのある声がする。教室の後ろに男は座っているらしいのだが、薫の方からは黒い影が辛うじて見えるに過ぎない。
「言う通りに来たわよ。授業をするって、何をすればいいって言うの?」
「その前に、まず夜の授業に相応しい格好になるんだ。」
「夜の授業・・・? 相応しいって・・・。」
その夜は特にミニスカートで来いとは言われてなかったので、薫はいつもの授業をする時のスーツで来ていた。
「脱ぐんだよ。全部、脱いで素っ裸になるんだ。」
「え、何ですって? 全裸で授業をしろっていうの・・・。」
只では済まないとは思っていたが、全裸で授業をさせられるとは想像もしてなかったのだ。
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