妄想小説
狙われていた新婚花嫁
七
優香が目覚めた時、自分が何処にいるのか全く分からなかった。波の音は相変わらず聞こえているものの、辺りは真っ暗闇に近い薄暗がりで何も見通せなかった。立ちあがろうとして背中を起してみると、お尻が冷たい床に触る。恐るおそる手を伸ばしてみて捲れ上った短いワンピースの下には下着を着けていないことに気づいて慌てる。暗闇に手を伸ばしてみると冷たい鉄の壁に手が触れる。
(何処なの、ここは・・・。)
起き上がろうとするが、頭がくらくらして眩暈を起しそうだった。こめかみがズキン、ズキンと疼く気がする。ふらふらしながらも壁に身を寄せ付けるようにして何とか立上る。捲れ上ったワンピースの裾を下ろそうとして、裾の中に手をいれ、再度下着を着けていない事を確かめる。
(どうしてショーツを穿いていないのかしら・・・。)
ふと不安になって股間に手をやり、あらためてドキリとする。指に触れるべきものがないのだ。つるんとした股間にはある筈の茂みがまったく感じられない。
(えっ? どうして・・・?)
取りあえず、壁伝いに少し動いてみる。指の先が何かの境目らしきものに触れた。すぐに扉だと気づいて、力を篭めて横に引いてみる。ガラガラっと音がして扉らしき物が横にスライドすると、月明かりに照らされた海岸が薄っすらと見えたのだった。
暗闇に次第に目が慣れてきたのと、月明かりがあるのでだんだん様子が掴めてくる。自分が今出て来た扉の中を振り返ると、ぼおっとだがマットレスやら折り畳んだデッキチェアなどが見える。
(倉庫・・・? わたし、何時の間にかビーチの倉庫に寝かされていたんだわ。)
どうしてそんな所に寝ていたのかは、どうやっても思い出すことが出来ない。しかし下着を着けていないことと、股間のものが剃り落されているのは誰かに何かされたに違いなかった。
(犯された・・・の? わたし・・・。)
身体の節々は痛いが、股間の粘膜に痛みは感じない。身体が痛いのは固い床に寝かされていたせいだろうと思った。が、自分の身体にそれ以上に何かされたのかはわからない。しかし、下着を奪われて股間を剃り落されたのだけは、間違いなさそうだった。
ふらふらする頭を抱えながら、ビーチからホテルの建物内に戻った優香は取りあえず自分の部屋を目指す。途中、床掃除をしているホテルスタッフに声を掛けられる。
「Good evening, madam. You want some more drink ? If so, the bar at the top is still opening. (今晩は、奥さま。もしもう少しお飲み物を御所望でしたら最上階のバーがまだ開いておりますよ。)」
「Ah, no thanks. I'm on the way to my room. (いえ、結構です。自分の部屋へ戻るところですので。)」
「Oh, I see. So, good night, madam. (ああそうでしたか。それではお休みなさいませ。)」
「Good night. (おやすみなさい。)」
何も悟られないようにホテルスタッフに挨拶を交わした優香は自分の部屋へまっしぐらに戻る。
部屋では相変わらず夫の裕也が同じ寝息を立ててベッドに横になっていた。夫の気配を確かめると、そっと音を立てないように自分のキャリーバッグから替えの下着を取り出すと、こっそり穿いてからキングサイズのダブルベッドの端に夫には触れないようにシーツに潜り込む優香なのだった。
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