妄想小説
狙われていた新婚花嫁
六
熱烈な恋の果ての結婚という訳では決してなかった。むしろきっかけはこの人こそ結婚相手ではと思っていた相手から、実は結婚することになったと打ち明けられたことからだった。しかもその相手は自分より年下の後輩だった。淡い恋心と共に自分のプライドをずたずたに傷つけられた気がした。職場で年下の後輩が結婚するのはもう三人目を数えていた。そんな時に上司の課長から仕事上の付き合いのある家の息子に逢ってみないかと勧められたのだった。形式上は見合いではなかったが、果てしなくそれに近いものだった。恋人に振られた寂しさがそんな紹介に飛び付かせてしまったのだった。自分の得意な英語を活かせる仕事だっただけに辞めるつもりはなかったのだが、資産家である相手先の親たちに(共働きのようなみっともないことはやめてほしい)と説得され、当然の如くそれに同意する裕也に説得されてしまったのだった。
(あの人は今頃、どうしているかしら・・・。)
独り身になって夜な夜な思い出すのは裕也の事ではなく、きまって別れた男のほうだった。初夜を逃した新妻が身体の疼きを憶えて知らずしらずのうちに指先が下半身に伸びていた。
(ああ、お願い。抱いてっ・・・。)
そういう言葉を、発しながら相手に抱きつく自分を想像していた。
海岸縁りに並ぶデッキチェアの上で自慰に耽る優香の姿をじっと見つめている男の目があった。優香のほうは自分の思いの方に夢中になっていて男が静かに近づいてきているのに全く気付いていなかった。男の方も息を殺して気配を消している。
男はやがて背中の後ろに隠しておいた布切れをそっと握りしめると、闇の中からさっと手を伸ばして優香の口元を蔽う。
「うぐぐっ・・・。」
優香が息の苦しさに声を挙げようとしたが、その前に意識がふっと遠のいていったのだった。
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