妄想小説
狙われていた新婚花嫁
十四
その夜も前夜と同じホテルのメインダイニングで採ることにした。裕也は今夜は呑まないでおこうと言ったのだが、自分も飲みたいので一杯だけならとグラスワインを取ることにして、ワインが来たところで優香はドリンクバーにある水をチェイサーに取ってきてくれるように頼む。
裕也がテーブルを立ったところで、送られてきた小瓶にあった薬一錠を砕いた粉をさっと裕也のワインに溶け込ませたのだった。
手紙に詳しいことは何も書かれていなかったが、すぐに優香は睡眠薬なのだろうと推察した。新婚の夫婦の片方を呼び出そうというのに、夫用に錠剤を送ってくるからには邪魔が入らないようにする為のものなのだろうと推理したのだ。それを今晩一杯だけのお酒と思って裕也は大事そうにゆっくりと呑み干したのだった。
薬は部屋に戻る少し前から効き始めてきたようだった。
「あなた。大丈夫? 一杯だけのワインなのに・・・。何だかとっても眠そうよ。」
「ああ、昼間結構泳いだからな。そのせいかな・・・。」
倒れ込むまでではなかったものの、部屋に入る直前は優香が肩を貸してやるほどだった。部屋に入るなり、裕也はベッドで寝息を立て始めたのだった。
(貴方、ごめんなさいね。でも貴方に相談したところで何も出来ないわよね。私ひとりで解決するしかないと思うの。暫く一人で寝ていてくださいね。)
心の中でそう夫に言い訳する。ズボンに穿き替えようかと思ったが、所詮脱がされるのだろうと昼間着ていたミニのタイトスカートのままで行くことにする。お金で解決できるのならと、義父に渡されたゴールドのクレジットカードを持ってゆくことにする。
途中、ホテルのフロントに寄ってコテージのある場所と部屋の位置を確認する。フロントでは部屋番号を書いたパンフレットを渡してくれたので、それを観ながら指定されたコテージに向かう優香だった。外に出ると、既にもう暗くなってきていて、敷地のところどころに点いている明りだけをたよりに薄暗がりの中を一人心細く思いながら歩いていくのだった。
コテージは、優香や裕也が泊っている部屋のある棟とは違って、一家族のみが塀に囲まれた一戸建てのような建物をあてがわれている場所で、新婚旅行の夫婦には人気でうってつけと言われていた。しかし、値段はそれなりにするので、若い夫婦は二の足を踏むことが多く、お金持ちの老夫婦が利用することが多いと聞いていた。優香も当初はプライベート性の高い独立したコテージにしたいとは思ったのだが、値段を聞いて止めにしたのだった。
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