妄想小説
狙われていた新婚花嫁
四十一
「お帰りなさいませ。梶谷さま、奥さま。」
送ってくれたジミーのテュクテュクを降りてロビーに戻ってきた二人を出迎えたのはコンシェルジュの島崎佳織だった。
「やあ、佳織さん。ただいま。」
「お二人でお出掛けだったんですね。仲がよろしくて羨ましいですわ。」
ふっと佳織が寂しげな表情を見せたのは、優香は何も気づかなかったが裕也の方は敏感に感じ取っていた。
「あ、いや。二人でって言っても、こいつはショッピングセンタで買物で、その間ボクはカジノで時間を潰してたんだ。」
「ああ、そうだったんですね。いかがでした、お買いものは?」
佳織は優香が何も持たずに帰ってきているのを見て、不審に思いながら訊ねた。
「それが、あんまりいいものが見つからなくて・・・。今度、買物の相談にも乗って下さらない。」
「承知しました。」
「そうだ。それならボクもちょっと相談に乗って貰いたいな。実はカジノに行って、知らない賭け事のゲームとかいっぱいあって、どうやるのか何か説明書みたいなものはないかな。」
「それでしたら、図書室に幾つか解説本があったと思いますが。」
「だったら、それ、見せてくれないかな。あ、優香。先に部屋に戻っていて。少し解説本を研究したら戻るから。」
それが裕也が佳織と二人になりたい口実だとは思いもしない優香は、裕也からカードキーを受け取ると一人で部屋に戻ったのだった。
「あのベランダにもう一度、行ってみたいな。」
図書室に入るなり、思い切ってそう言ってみた裕也に佳織はにっこりと頷く。
「どうぞ、こっちですわ。裕也クン?」
意味ありげに迎えに出た時とは違って名前で呼んだことにピンと来た裕也だった。
「淋しかったんじゃないのかな。ま・・・、真弓さん。」
先にベランダに入った真弓は裕也を招じ入れるとさりげなくドアのロックボタンを押す。
「真弓は淋しくなかったって言えば、嘘になるかな、裕也クン。」
そう言って軽く目を閉じる佳織の肩を裕也は両手で引き寄せると、そのまま唇を押し当てる。
「裕也クンたら、真弓を置いて他のひとと遊びに行っちゃうんですもの。」
「ごめんね、真弓さん。暫く、こうしてていいかな。」
そう言うと唇を付けたまま、裕也は手探りで真弓に成り切っている佳織の手を掴むと恋人繋ぎでぎゅっと握りしめるのだった。
次へ 先頭へ