妄想小説
狙われていた新婚花嫁
十二
「いやね。あんまりじろじろ見ないでっ。あれっ、もう呑んでるの?」
優香は裕也の傍らにビールグラスが置かれているのを目聡く見つける。
「まだ夜までは随分、時間があるだろ。だから今のうちなら大丈夫さ。君も何か呑む?」
「えっ、そうね。トロピカル・カクテルでも頼もうかしら。」
「トロピカル・・・? 何、それっ?」
「あら、いやだ。南国のプールサイドで呑むお酒の総称よ。ピニャコラーダでも頼もうかしら。」
「えっ、ピニャ・・・・。何だっけ。」
「いいわよ。自分で頼むから。Mister, please ! 」
「ちぇっ。俺の出番は無しってわけか。」
勝ってにプールサイドのウェイターを呼んで飲み物を注文する妻に、ふてくされてデッキチェアに寝そべってしまう裕也。それをみて、再びプールサイドウェアを羽織ってしまう優香だった。
何気なく、プールサイドをぐるっと見回してみる。
(この何処かに私のことを見張っている男が居るのかもしれない・・・。)
そう思いながら眺めていると、どの男も怪しく思えてくるのだった。
(『命令に従え』って書いてあったわ。いったい何を命令しようと言うのだろう・・・。)
そんな不安を抱えて、隣でふて寝している夫の裕也をちらっと眺める。
(この夫には相談してみても無駄だろう。いや、却って逆上してしまって、離婚するとか口走りかねないわ。自分で何とか解決するしかないのだわ。どうしたらいいのだろう・・・。)
プールは明るい光に満ち溢れていて、一見平和そうな雰囲気に満ちている。しかし、何処かに邪悪なものが潜んでいるのだと思うと、優香は心配で居てもたってもいられないのだった。
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