妄想小説
狙われていた新婚花嫁
十九
夜明け前にふらふらになりながらも、こっそり自分の部屋へ戻った優香はぐっすりと眠って目を覚まさない夫の横で、興奮した身体を持て余して悶々としながら自慰を止められなかった。二日間初夜をお預けにされた新妻の身体に火を点けられてしまったかのようだった。
外が明るくなってきたところで、起き上がって夫が使っているスイミングゴーグルを手に取ると、一人フロントのあるロビーへ向かったのだった。
「Good morning, madam. May I help you ? (お早うございます、奥さま。何か御用でしょうか?)」
「Ah, I've picked up this from one gentleman dropped off at the corridor. I think that gentleman stays at the cottage No.2027. (あの、これを廊下で拾ったんですけれど。多分、2027号のコテージの方だと思うんですが?)」
「Well, just a moment, madam. let's see . . . I'm sorry, madam. The cottage No. 2027 is vacant at this moment. (奥さま、少々お待ちください。えーっと、すいません。2027号は空室になっておりますが。)」
「Oh, excuse me. I might have done some mistake, then. Ok, I can recognize him. So I would hand it to him at the pool. (あら、ごめんなさい。間違えちゃったみたいね。でも顔は憶えているからプールで渡すことにするわ。)」
「Thnak you very much, madam. (ありがとうございます、奥さま。)」
「Sorry to bother you. (お手間取らせてごめんなさいね。)」
「Not at all. Have a nice day, madam. (とんでもありません。よい一日を。)」
フロントを後にしながら訝し気に思う優香だった。正体を突き止める為に名前を聞きにいったつもりだったのだが、空室を使われていたのだった。
「あら。起きていたの、貴方。」
部屋に戻った優香は起き上がったばかりの裕也を見て声を掛ける。
「なんだ、朝から散歩か・・・。 あれっ、それ。僕のゴーグルじゃない?」
「ええ、プールに置き忘れていたみたいだから持ってきたのよ。」
「ああ、そうだったかな。昨日はごめん。また寝ちゃったみたいだな。」
「いいのよ。疲れが溜まっているのよ。私は平気だから。」
「そうかい。じゃ、顔を洗ったら朝食に行くことにしようよ。」
何も怪しんでいない夫に、胸を撫で下ろす優香だった。
「その前にちょっと、こっちへおいでよ。」
夫が両手を伸ばして、ベッドの上へ呼び寄せようとしているのだ。しかし誰かの体臭が残っているかもしれない身体のまま、夫に身を任せる訳にはゆかなかった。
「あら、ごめん。朝の散歩してきたら汗掻いちゃったみたい。先にシャワー浴びてくるわね。」
「いいよ、汗ぐらい。こっちへおいでよ。」
「駄目よ。わたしも気持悪いし。」
(すぐ出てくるから)と普通は言うのだろうなと思いながら、優香はわざと時間を掛けてゆっくりしようと心に決めてバスルームに入ったのだった。
「昨日はブールに一日居たし、今日はフィットネスセンタで汗掻いてこようかな。」
ビュッフェの朝食から帰ってくるなり、夫の裕也が言い始めた。
「ランニング・マシンとかウェイトトレーニングとかいろいろ設備が整ってるって、このホテルガイドに書いてある。」
「そう?」
運動は得意でない訳ではないが、かと言ってさほど好きでもない優香は乗り気でない。
「それなら私はその間、スパに行こうかしら。エステもあるっていうし・・・。」
「じゃ、今日はそれぞれで好きな事をする日にしようか。」
「そうね。それもいいわね。」
久々にしたセックスの余韻が残っている身体で夫と身体を合わせることに為らないで済むのならそれに越したことはないと優香も密かに思うのだった。
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