妄想小説
狙われていた新婚花嫁
五
優香はすぐ隣のベッドで軽い鼾を掻きながら寝息を立て始めた夫の姿を見て(ふぅーっ)と大きなため息を吐く。
夕食をホテルのメインダイニングでフルコースディナーにした二人だったが、食事の時から呑み始めたワインが懼れていた通りの結果を招くことになってしまったのだった。
「ねえ、あなた。もうその位にしておいたほうがよろしくはなくって? 」
夫が酔い潰れるのではないかと思って夕食の途中から窘めていた優香だったが、元々酒に強くない裕也は雰囲気にも呑まれ易く、新婚旅行でのディナーに浮かれていたせいでついつい酒が進んでしまったのだった。
部屋に戻るまでは優香の腰に手を回していて、時折倒れそうになる夫を支えようとした際に下半身の物が勃起し始めていることにも気づいていた優香は密かに期待をしていたのだが、ベッドに横になるなりそのまま寝息を立て始めていたのだった。
こっそり夫のズボンを降ろして手を当ててみた優香だったが、そこは既に勢いを失っていた。
優香自身は酒豪だった父親譲りのDNAのおかげか、酒に酔い潰れるということは経験したことがなかった。それだけに相手に先に酔われてしまうと物寂しさだけが残るのだった。
優香は処女だった訳ではないが、結婚前の裕也には身体は許してなかった。特に強い貞操感があったという訳ではないのだが、裕也の方は自分のことをそう思い込んでいる節があったのだ。それでそうとは気づかれないように、結婚までは身体を許すまいと決めたのだった。しかしその事が却って裕也には処女だと思い込ませることになってしまっていた。
結婚式の最初の夜を新婚旅行へ出掛ける前の空港傍のホテルで迎えたのだが裕也は結婚式で呑まされた酒に酔って寝てしまったのだった。初夜でセックスに失敗したことで、優香は何とかリゾートホテルで最初の夜を迎えようと思っていたのだが、海外最初の夜も昼間呑み過ぎたせいでベッドに入るなり寝てしまった裕也なのだった。
慣れない初めての海外旅行のせいか興奮して眠れそうもなくなった優香は酔い覚ましも兼ねて独りでホテル内の散歩に出ることにしたのだった。
優香達が泊ったのはリゾートの典型的な国際ホテルで、海岸もプライベートビーチで囲われていてホテルスタッフ他警備員までが巡回しているので、夜中に独りで歩き回っても治安がよく、全く心配が無いのだと旅行業者からは聞いていた。夕食時は賑わっていたダイニングやロビーも既に引き揚げてしまった客が多く、閑散としていた。独りで居ると思われるのが嫌で、優香は夜のビーチに出ることにした。
心地良い風が吹いて、波の音だけがやさしく静寂さを抑えて優しく包み込んでくれていた。優香はずらっと並んだデッキチェアに誰も来て居ないのをいいことに、一人でそこに横たわってみることにした。
(こんな結婚でよかったのかしら・・・。)
ふとそんな思いが優香の脳裏を掠める。
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