reception

妄想小説

狙われていた新婚花嫁



 十三

 夫の裕也は何度かプールへ泳ぎに入ったが、優香は結局一度も泳がず終いで部屋に戻ることにする。帰り道にレセプションの前を通りがかったところで優香はフロントの男に呼び止められる。
 「Excuse me, Madam. Madam Kaji . . . Tani ? (奥さま。梶谷さんですか?)」
 優香が振り返るとフロントマンがにっこり微笑みかけている。
 「ちょっと待ってくださる、あなた。 Yes, I'm Mrs. Kajitani. What's the matter ? (はい、そうですが。何か?)」
 「I have something to hand to you, Madam. (お渡ししたいものが・・・)」
 「Just a moment, Mister. (ちょっとお待ちください。)」
 優香は不審を感じてわざと英語を多用し、夫にこの場を去らせようとする。
 「何か用があるらしいの。先にお部屋に行っててくださる? すぐ行きますから。」
 「ああ、いいよ。」
 裕也は(どうせ俺が居ても何も判らないと思って)という表情を顔に出しながらも、英語が話せないことで恥を掻きたくなくて一人で先に部屋に戻ることにする。
 「I have asked to take this to you. (これを渡して欲しいと頼まれたのですが)」
 そう言ってフロントマンはテーブルの下の棚から小さな箱を取り出した。
 「From who ? (どなたからですの?)」
 「I' sorry, but I don't know. One of our bell boys has asked to hand it to you. (申し訳ありませんが存じ上げません。ベルボーイが渡すようにと頼まれたそうで。)」
 「Ok. Thanks. (そう、ありがとう。)」
 仕方なく優香が箱を受け取り、ロビーの隅で開けてみる。中には小さなガラスの壜が入っているだけだ。壜の中身は白い錠剤が数粒あるだけだった。優香は首を傾げながら部屋へと急ぐ。

 「ああ、優香。何か手紙みたいのが来てるんだけど・・・。」
 手紙と聞いて、優香はどきりとする。
 「何でしたの?」
 不安に駆られながら訊いてみる。
 「いや、英語みたいだからさ。お前が帰ってくるのを待ってたんだ。」
 「そうですか・・・。あ、これ? えーっと。」
 嫌な予感はするが、夫に隠れて開ける訳にもゆかなかった。
 『You should have received my present. That's for you, especially for your husband. Give him one pill out of the bottle at night secretly. We will meet at the cottage No.2027 at 11 o'clock. (私からの贈り物を受け取っただろう。それはお前等、特にお前の夫用のものだ。夜になったらこっそり奴に呑ませろ。11時に2027号室のコテージで待ってる。)』
 それは間違いなく優香への呼出し状だった。
 「何だって?」
 夫の裕也は不思議そうな顔をして訊いてくる。優香は表情を変えないように気を付けながら、一瞬だけちらっと英文であることを夫に示してそれを読む振りをする。
 「これは帰りの便のリコンファメイションの要請だわ。」
 「何だい、リコン・・・なんとかってのは?」
 「ああ、帰りの飛行機にちゃんと乗りますっていう確認の連絡の事よ。飛行機会社が確認の為に送ってきてるの。海外旅行では普通でしょ、こういうの。」
 「ああ、そうそう。そうだった。前もそんなのあったな。でもリコン・・・なんとかってのは俺たちが行った大学のゼミの時は全部幹事がやってたからな。」
 裕也がリコンファメイションを知らないのは見え見えだったが、優香は気づかない振りをする。
 「で、お前の方は何だったのさ。さっきのフロントのは。」
 「ああ、あれも帰りの便の事よ。フロントにエアチケットを届けてあるんですって。最終日に受け取るようにですって。」
 「ああ、なんだ。そう言う事か。」
 裕也は少しも怪しんだ風はなかったので、少し安心した優香だった。

優香

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