佳織案内

妄想小説

狙われていた新婚花嫁



 三

 優香たちが案内されたのは、吹き抜けの涼しげな風が抜けていく天井の高い広々したロビーだった。そこかしこに置かれたソファのひとつに席を取った優香たちの前に現れたのは思いもかけない日本人女性のコンシェルジュだった。
 「お待たせいたしました。当ホテルで日本人の方の担当コンシェルジュをしております島崎佳織と申します。チェックインの御案内をさせていただきます。」
 「へえ、このホテルは日本人のスタッフが居るんだ。」
 「はい。このところ日本人の観光客も増えていらっしゃいますので。日本人スタッフを用意しているのも当ホテル特有の特徴の一つになっております。御用がありましたら何なりとお申し付けくださいませ。」
 「やあ、いいなあ。やっぱり日本人だと安心できる。」
 夫が妙に喜んでいる傍で、折角外国のホテルに来たのだから日本人スタッフでなくてもと思う優香だった。優香は海外旅行の経験はなかったものの、英文科を出ているのでそれなりに英語は使えて不自由は感じなかったのだ。日本人向けのコンシェルジュだという島崎佳織が言うように、このリゾートも日本人には人気らしく、優香自身、空港でも何組かの日本人旅行者をみかけたし、空港からホテルへ来る送迎バスにも日本人らしき観光客は数名は居たようだった。
 「佳織さんはこちらはもう長いんですか?」
 優香も親しげに話し掛けてみる。
 「実は、まだこちらには赴任したばかりで。今、やっと3箇月を超えたぐらいです。まだ慣れなくって、ご不便掛けるかもしれませんが宜しくお願いします。」
 「いえいえ。私も海外は初めての経験なので、こちらこそ宜しくお願いします。」
 優香は言ってもはじまらない夫の海外経験については触れないことにした。
 「ではまずお部屋にご案内します。新婚さんにもとても人気のあるお部屋なんですよ。どうぞ、こちらへ。」
 「あ、お願いします。」
 優香は佳織の差し出した手にキャリーバッグを託すと、自分でカートを牽いていく夫と先を行く佳織の後に従って奥へ続く回廊に向かって歩き出したのだった。
 「佳織さん。ここのホテルは一戸建てみたいになったコテージもあるんですよね。」
 「ええ、ございます。この島の昔ながらの建物を生かしたとてもプライベートな空間で、このホテルの売りのひとつでもあるんです。」
 「確か、ロスメンとかいうんですよね。」
 「あら、よく御存じでいらっしゃいます。」
 「私達もそんなところに泊ってみたいと思ったんですけれど。やっぱりお値段が・・・。」
 「そうですよね。新婚の皆さんにはとても人気はあるんですけど、それなりにお値段はしますので、やっぱり若いカップルの方は遠慮されるみたいです。でも今回のお部屋も若いカップルの皆さんにはとても評判がいいんですよ。」
 「そうみたいですね。楽しみです。」

優香

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