妄想小説
狙われていた新婚花嫁
三十一
いつもの夕食ディナーをいつものメインダイニングで採った裕也と優香の二人だったが、二人ともお互いに内なる昂揚感に包まれていることをお互いにばれないように平静さを繕って向かい合っていた。ディナーはそのまま民俗舞踊ショーが始まることになっていた。優香の切望で裕也も付き合うことにしたのだが、それほど興味のない裕也はこっそり昼間の出来事を頭の中で反芻しながら過ごしていた。
民俗舞踊ショーは、古代の神話劇の造りになっていて、悪魔一味に囚われたお姫様を勇敢な若者が救出に行くという武勇伝なのだが、デフォルメされたエロチックな雰囲気に優香は自分を重ね合わせて見入っていたが、時折我に返ると舞台の何処かにジミーの姿を捜していた。一方の裕也の方も、暇さえあれば舞台の何処かに島崎佳織が控えているのではないかと優香の目を盗んではきょろきょろ探し回っているのだった。
民俗舞踊ショーが終わると、テーブルが少し片付けられてメインダイニングはダンスパーティの会場に早変わりする。客の大半は慣れているのか、皆めいめいにカップルを組んでホールに立つ。バックバンドがダンス音楽を奏ではじめるとそれぞれが踊り始めるのだった。裕也も優香もそんな場所は初めてだったので、どうしていいか判らないでテーブルで只見とれていた。
「あら、ダンスに参加なさらないのですか?」
声を掛けてきたのは、コンシェルジュの島崎佳織だった。
「あ、いや。ダンスなんて日本でもしたことないし・・・。」
「そんなに難しく考える必要はないんですよ。ダンスコンテストじゃないですから。よかったらお教えしますよ。奥さまも、誰か教えられる男性スタッフを探しますから。」
「あ、私はいいです。」
尻ごみをする優香だったが、その声を待っていたかのように後ろから声を掛けて来る者がいた。
「ワタシガオクサマノオアイテヲシマスヨ。」
いつの間にかジミーが近くに寄ってきていたのだった。
「あ、ジミー。じゃ、奥さまの方、お願いしますね。梶谷さま。さ、こちらへどうぞ。」
佳織に手を取られると、すんなり立上った裕也だった。
「旅の恥は掻き捨てっていうからさ。ちょっとやってみようよ。」
首を振ろうとする優香にジミーは人差し指を立てて口にあて、ウィンクしてみせる。それは(黙って言うことを聞かないと旦那に昼間の事をばらすぞ)と警告しているかのようだった。断りきれなくなった優香は仕方なくジミーに手を取られてホールに向かう。
「こっちの手を取って、もう片方の手は私の腰にあててくださいね。」
裕也は言われた通りに、おそるおそる佳織の腰に手を回すが、佳織のほうは慣れたさばきで身体を密着させてくる。佳織の髪の甘い香りが裕也の鼻をくすぐる。すると昼間の事が思い出されてきて、あそこが勃起してきてしまう。腰をくっつけているので佳織に気づかれてしまうのではと心配になるが、佳織のほうは気づいていないのか、平気な様子なのだった。
「ねえ、もういいわ。お願い、放して。」
「ダメデース。ダンナサン、トテモタノシソーデスヨ。」
ジミーに腰をしっかりと抑えられたまま、優香が振り向くと、裕也がだんだんダンスを愉しみだしているのが遠目にもよくわかった。
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