妄想小説
狙われていた新婚花嫁
一
優香は先程から車窓を流れていく、観た事も無い南国の田園風景に目を奪われていた。優香にとっては初めての海外旅行だった。新婚旅行にこの国を選んだのも優香自身だった。憧れていた南国のリゾート地に向かうホテルの送迎バスは先程降り立った空港から１時間程度だと聞かされていたのだ。
「そんなに物珍しいのかい？ こんな田舎の風景が。」
送迎バスの最後列の反対側の端に席を取っていた夫の裕也が訊ねてくる。裕也は「海外は初めてではないから安心して俺について来い。」と豪語していたのだが、それはあまりあてにはならないことを初めて降り立った海外の空港での入国手続きで思い知らされたのだった。
「Hey, mister. May I see your Passport ? （旦那さん。パスポートを拝見出来ますか？）」
「えっ、ぱ、パスポート？ あ、はいっ。これです。」
「Oh key. Hmm. How long are you goin' to stay ? （滞在はどれくらい？）」
「えっ・・・、何？ えーっと・・・。あっ、サイトシーイング。」
「What ? You can speak English ? I'm afraid you can't.」
「ねえ、裕也さん。滞在期間を訊かれてるの。一週間、one weekよ。」
裕也の後ろに並んで待っていた優香は洩れ聞こえてきた会話に、堪らず助け舟を出す。
「あ、そうか・・・。大丈夫、大丈夫。えーと、わ、ワン ウィークっ。」
「Hmm ? OK. Go ahead. （ふん、いいよ。行きな。）」
怪しそうに挙動不審の裕也を見ていた係官も、相手をしていても時間の無駄だと思ったらしく裕也を顎でしゃくって通そうとする。
「裕也さん。行っていいって。」
「わかってるってば。じゃあな。あばよ。」
裕也は係官に向けて軽く手を挙げて入国審査のブースを通り抜けていく。
「Next, Madam. （お次の奥さま、どうぞ。）
その時、優香は夫が海外旅行の経験があると言っていたのは大学のゼミの団体旅行で、行き先はハワイだった筈なので殆ど英語は使わずに日本語で通じたのだろうと思ったのだった。
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