妄想小説
狙われていた新婚花嫁
二十八
裕也がプールかサウナに行ってくると言って出て行った後、優香は一人身を持て余していた。当初はエステに行くと言っていたのだが、スパの中にあるエステでは、マッサージ師もやっているというジミーにばったり出会ってしまう畏れがあって、行くのを躊躇してしまったのだった。
プールに一人で行くのも惨めな気がしたし、かと言って部屋に居ても詰まらないと思って、ビーチのほうへ散歩に出る事にしたのだった。
レセプションのあるロビーからビーチのほうへ出ていく階段を下っていくと後ろから声を掛けられ、優香はビクッと首を竦める。振り向かなくても判るジミーの声だった。
「ユーカサーン。オサンポデスカ?」
ジミーを避けて海岸に出たつもりだったのに失敗だったと後悔する優香に、ジミーは何食わぬ顔で近づいてくる。
「優香なんて、外で気安く呼ばないで。夫が何処にいるかわからないじゃないの。」
「ダイジョーブ、ダイジョーブ。カレハサッキ、サウナルームニハイッテイキマシタ。オンナノヒトとイッショニネ。」
「ま、まさか・・・。」
ホテルのスタッフであるジミーは勿論誰と一緒だったかは知っている。しかし、優香には微妙にはぐらかして、わざと心配させたのだった。ジミーは優香にウィンクしてみせる。
「サンポナラ、オツキアイシマスヨ。」
「いいわ、結構よ。貴方だってお仕事があるんでしょ。」
「ワタシタチ、ホテルノスタッフ、オキャクサンエスコートスルノモシゴトデース。ソレニ、アナタ、コトワレナイ。ソーデショ?」
「しっ。大きな声出さないで。誰か聞いてるかもしれないじゃないの。」
「ワタシ、イイトコ、アンナイシマス。コッチデース。」
おどけたように言うジミーに後についてゆかざるを得なくなった優香だった。
事も無げに先を歩いてゆくジミーの前方にちょっと古びた洋館風の白い建物が見えてくる。
「何なの、あれは・・・?」
「ムカシ、ツカワレテイタゲストハウスデス。」
「ゲストハウス?」
「フルイノデ、ダレモツカッテイマセン。ダカラ、ダレモキマセン。」
誰も来ないと聞いて、優香にはジミーの企みが読めてきた。
「そんな所へ私を連れていって、どうしようっていうの?」
「アナタ、ヒトノコナイトコロ、イキタイデショ?」
「わ、私は別に行きたくはないわ。」
「ジャ、ヒトノイルトコロデシタイデスカ。」
「うっ・・・。」
優香が返答できないのをみてジミーはにやりとするのだった。
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