妄想小説
狙われていた新婚花嫁
十
「おーい。トイレ、まだかい?」
扉の向こうで裕也が声を掛けてきたのに気づくと、慌てて紙切れを封筒にしまって小さく折り畳むとポケットの奥に忍ばせる優香だった。
「あ、ごめんなさい。今、出るわね。」
バスルームを出ると、裕也はテーブルに置いておいた英字新聞を自分にも読めないかと広げてみて、やっぱり無理かと諦めたところだったようだ。
優香に代わってトイレに入った裕也が部屋に戻ってくると、そこに何時の間にかキュロットからミニスカートに着替えた優香の姿を見つけたのだった。
「あれっ。やっぱりキュロットは止めたのか。」
「だって、貴方がババ臭いなんていうんですもの。」
優香は夫のために着替えたような振りをするのだった。そのミニスカート姿に刺激された裕也が後ろから近づいてくるのに優香は気づいていなかった。いきなり後ろから抱きしめられ首筋にキスをされる。
「あ、いやっ。裕也ったら・・・。」
「いいじゃないか。ゆうべ、出来なかったんだからさ。」
優香は咄嗟に頭を巡らせる。今しては何か感づかれそうな気がしたのだ。
「だ、駄目よぉ。今は・・・。」
「何でだよぉ。」
「だ、だって・・・。この時間はベッドメーキングの人が来るわよ。」
「そんなの。ドアの外にドント・ディスターブって札、出しとけばいいってガイドブックに書いてあったぜ。」
「あら、それじゃ今してますって宣伝してるようなものじゃない。駄目よ、恥ずかしいわ。」
「ちぇっ。つまんないなぁ。」
「いいじゃないの。夜まで愉しみは取っておきましょうよ。その代り、今晩は酔い潰れないでね。」
痛いところを突かれた裕也は、それ以上押し通す気を削がれてしまったのだった。
「じゃ、ビーチの前のプールへ行こうか。まだ泳ぎに行ってなかったもんな。」
「そうね・・・。あ、待って。私、まだむだ毛の処理、終わってないの。先に行っててくださる。すぐ追っ掛けていくから。」
「そうかい。じゃあ、プールでパラソルとチェア借りて待ってる。」
優香は水着に着替えて出ていく裕也を見送ると再びバスルームに籠って封筒の中身を再度確認する。
(どうしよう・・・。)
取り敢えず、時間を置いてプールへ行くことにした。もしもの時に、ビキニではみ出すといけないから全部剃っちゃったのだと言い訳しようと考えたのだった。
次へ 先頭へ