究極リフト2

妄想小説

体操女子アシスタントの試練


 五十五

 「よし、いいぞ。大分長く静止状態が保てるようになったじゃないか。上達が早いな。」
 あかねは東郷の掌の上で自分の全体重を股間に集めるように感じながらバランスを取っていた。
 「そのまま上へ持上げてみてください。」
 あかねは東郷にそうリクエストする。目隠しをされたままだが、自分の身体がすうっと宙に浮くのを感じる。以前はそれだけでバランスを崩して床に転げ落ちたのだが、重心がずれかけるとすぐに背中の反り具合で重心のずれを調整出来るまでになっていた。
 「いいだろう。真っ直ぐ前に身体を倒して。」
 信頼しきっているあかねは空中に飛ぶようなつもりで身体を前に倒すと、東郷の腕ががっしりとあかねの身体を支えて着地させるのだった。
 「見事だった。」
 「ありがとうございます。東郷さんの指導のおかげです。」
 今では完全に究極のリフトのポーズをマスターしたあかねだった。
 「東郷さん。この間、撮るよう指示された新しいコスチュームのPVなんですが・・・。」
 「新しいコスチュームのPV・・・? 何の事かな。」
 「え、ご存じないのですか。それじゃ、討論会形式のインタビューのVは?」
 「それも知らないなあ。僕の企画ではないのじゃないかな?」
 「やっぱり・・・。」
 「その口ぶりじゃ、僕の指示だと言われて何かのVを撮ったということらしいが。」
 「え、ええ・・・。」
 あかねは、西村の言い方がちょっと気にはなっていたのだ。
 (そう言えば、西村さんはプロデューサ、プロデューサとは言っていたけど、東郷さんの名前は一度も口にしなかったような気がするわ。)
 あかねにも段々と局内の構図が見えてきたような気がしたのだった。

 「西村さん。この間の討論形式のインタビューの時のVと新コスチュームの検討用のV、編集前のものを全部こちらへ持ってきて頂けますか。」
 「え、編集前のもの・・・? そ、それはだから前にも言ったように・・・。」
 「これは東郷プロデューサの命令です。東郷・・・プロデューサのね。」
 「と、東郷さんの・・・。」
 「そうです。西村さん。貴方、今のディレクターの仕事、続けたいですよね。」
 「そ、それは・・・。わ、わかった。い、今すぐ持ってくるから。ち、ちょっと待っててくれ。」
 西村ディレクターが出ていって、茶色の紙包みに入ったビデオテープの束を持って戻ってくるのに10分とは掛からなかった。
 「こ、これは別の・・・、東郷さんとは別のプロデューサから指示されたもので。ぼ、僕はだから嘘は言ってないからね。」
 「どう判断されるかは東郷さん次第だと思います。でもすぐにビデオを持ってきたことは評価します。それなりに東郷さんには伝えておきますので。」
 「ど、どうか・・・よ、宜しく東郷さんにはお伝えください。失礼します。」
 すごすごとスタッフルームに戻ろうとする西村にあかねは追掛けるように伝える。
 「この間のVを撮影したカメラマンの足立さんを今度はこちらに呼んで頂けますか。」
 「は、はいっ。すぐに。」
 逃げるようにその場を後にする西村を見送ったあかねだった。

あかね微笑

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