妄想小説
体操女子アシスタントの試練
十五
二日目の収録の後、再びディレクターの西村から東郷プロデューサの部屋へ行くよう指示されたあかねは、何時呼ばれてもいいように持ってきていた上に羽織るスプリングコートは持ってきてはいたものの、一度着替えてから東郷の部屋へ上ることにした。収録時間がずれている吉村へは、まだ控え室に残ると言っていた原西に洗濯してきた吉村のパーカーを言付けてスタジオを後にしたのだった。
「矢田あかねです。」
軽くノックした後、東郷の部屋に入ったあかねは、前回と同じくジャージ姿の東郷を目にする。
「あ、レッスン室ですね。」
自分から部屋へ向かおうとするあかねに東郷が呼び止める。
「これから着替えるんだったら、こっちにしてくれるかな。」
そう言って一枚の薄っぺらい布きれを手渡される。それは水着ほども面積の無い一枚のレオタードだった。
「新しいコスチュームの試作品と言って、出入りの業者が今日持ってきたものなんだ。ついでにどんな感じなのか見てみたい。」
「わ、わかりました。」
あかねはそう答えて薄い布きれを受け取るとレッスン室のドアを開け、更衣室代わりの部屋の隅のカーテンを開く。それは頼りなげな被覆面積の少ないレオタードだった。
「これですが、どうでしょうか・・・?」
ハイレグカットのきつい水色のレオタードを纏ったあかねは鏡の前の部屋の中央に立つと、入ってきた東郷に訊いてみる。
「ううん。まあ微妙なところかな。上層部の意見を訊いてみないとな。まあ、いいや。今日はそれでレッスンをしてみよう。」
「はいっ。宜しくお願いします。」
「じゃ、この間の上体反らしからやってみて。」
「はい。自宅でも少しトレーニングを続けてみましたので。」
あかねは腰骨の後ろに両手を突いて上体を反らしていく。
「ううむ。前回より大分改善してはいるね。」
あかねはちょっと躊躇ったが、思い切って考えていたことを口にする。
「あの、東郷さん。この前みたいに、身体を支えてみてくれませんか?」
「うむ。いいよ。」
東郷が以前と同じようにあかねの真正面に立ち、一旦は腰骨の辺りに置いた手を思い直して尻たぶの下までさげてくる。あかねが身体を後ろに反らすと同時に恥骨のあたりに東郷の下半身の膨らみをお互いの着衣を通して感じる。あかねの脳裏に夢の中の甘美な快感が蘇ってくる。
(ああ、この感じだわ・・・。)
思わず愉悦のため息があかねの口から洩れそうになるのを必死で堪える。
「うん、いいだろう。だいぶ、いい・・・。じゃ、今度はY字バランスを取ってみて。」
「はいっ。」
あかねは片足の爪先を片手で掴むと、そのままバランスを取りながら大きく股を広げて脚を持ち上げていく。目の前の鏡に自分の姿が大きく映っている。カットがきついハイレグなので股間を被っている部分が細くて頼りない。あかねはそこばかりを注目して観ているとバランスを崩しそうになるので、その部分を敢えて見ないようにする。
「じゃ、そのままI字に持っていって。」
東郷の指示に従って、上にあげた脚を抱えるようにして自分の身体にぐっと引き寄せる。
「ううむ、ちょっとふらつくね。一回、脚を下して。」
そう言うと東郷は何かを持ってくる。あかねには見せないまま、背後に立つ。
「目隠しをするよ。いいかい。」
そう言うと、東郷は後ろから黒いビロードの帯のようなものであかねの両目を蔽うと、後頭部できゅっと結わえる。
次へ 先頭へ