あかね3

妄想小説

体操女子アシスタントの試練


 十

 「矢田あかねです。失礼します。」
 エレベータを降りると逃げ去るように東郷プロデューサの部屋まで一目散に走り込んだあかねはノックもそこそこに東郷の部屋へ入る。
 「おやっ? ああ、レオタードのままで来たんだね。こっちにも更衣室はあったのに。」
 「えっ? あ、いや・・・。西村ディレクターが気を利かしてそのままって言ったんだと思います。まだ着替えていなかったので。」
 「ああ、そうかい。あ、その扉の向こうがレッスン・ルームになっているから。」
 入ったその部屋は面接でも来たことのある、いわゆるオフィスっぽい事務室という感じだったが、更に奥に続くドアがあった。指し示されるまま、あかねが扉を開けて入ってみると、壁一面が窓になった広い部屋が広がっている。窓に直交する壁は一面の鏡張りになっている。部屋は海側に面しているらしく、大きなビルなどがないので一面空が広がっていて開放的だ。それにレオタード姿でも外から見られる心配がなく、あかねは少し安心する。
 「こちらでレッスンを受けるんですね。」
 「まあレッスンというよりは、アドバイス程度かな。アシスタントの人達には、より美しく見えるように体操を指導するのも私の仕事なんでね。」
 「あの、よろしくお願いします。」
 あかねはそういって恭しくお辞儀をする。
 「じゃ、早速レオタードになって。」
 「あ、はいっ。」
 あかねは吉村に借りてきたパーカーを脱ぐと更衣室代わりのカーテンの奥にあるパイプ椅子に掛けておく。
 「部屋の真ん中に立って。鏡の方を真っ直ぐ向いてっ。」
 「はいっ。」
 「じゃ、まず軽くストレッチから始めようか。腕を挙げて上半身を横に曲げて。はいっ、反対側。繰り返してっ。」
 東郷の指示でストレッチを続けているうちに、緊張していたあかねもだんだんリラックスしてくるようだった。

あかね微笑

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