沙希

妄想小説

体操女子アシスタントの試練


 二十四

 「矢田さん、ちょっとお話が・・・。」
 「あら、君津さん。何かしら?」
 亜紀は辺りを見回して他に誰も居ないのを確認してから言いにくそうに話を切り出した。
 「貴方、あそこの処理をしてないでしょ。」
 「え、あそこって・・・?」
 「若いカメラマンから言われたの。前回の撮影の時に、矢田さんのアップを撮っていたらレオタードの脇からちょっとだけだけどヘアがはみ出ていたんですって。」
 「えっ・・・?」
 「彼、とても言い難そうで、自分からはとても言えないから私に代わって伝えて欲しいっていうので。」
 「え、本当なの。」
 そう言って、思わず既に着替えていたレオタードの下半身を観てしまう。しかしその時ははみ出している陰毛は見えなかった。
 「アレが映ってしまうと放送事故になってしまうので、私達はあらかじめ際の部分だけじゃなくて全部剃りあげているの。万が一っていうことがあるから。放送事故になってしまうと皆んなに迷惑を掛けることになるから、万全を期しているのよ。貴方、ご存じだと思って誰も注意しなかったのでしょうけれど。」
 「し、知りませんでした。迂闊でした。」
 「私、偶々剃刀の予備持っているので、貴方にあげるわ。今なら間に合うから局の当直者用に用意されているシャワー室で使ってきたらいいわ。はい、これっ。」
 亜紀が差し出す使い捨てのT字型剃刀をあかねは受け取る。
 「あ、それからレオタードの下は何も着けちゃ駄目なのよ。知ってるとは思うけど。パンティラインがカメラに映っちゃっても放送事故になっちゃうから。」
 「え、そうだったんですか。わたし、知らなかったので・・・。すぐ処理をして着替え直してきます。」
 そういうと、亜紀に渡された剃刀を手に、サマーコートをレオタードの上に羽織って、当直者用のシャワー室に急ぐあかねだった。
 入れ替わりに入ってきたのは吉村春江だった。あかねは軽く会釈だけしてそそくさと出ていく。亜紀の方は春江の顔を見て、にやりとしながら指で輪を作ってウィンクして見せるのだった。
 「うまく行ったみたいね、亜紀。」
 「ばっちりよ。すっかり信じ込んでる。今、用意しといた剃刀持ってシャワー室に行ったわ。」
 「じゃ、もうひと押し、仕上げね。」
 そう言うと吉村はカメラマンなどが居るスタッフルームへ向かう。
 「足立く~ん。今日、第二カメラ担当なんでしょ。」
 「矢田って新人。今日はばっちり決めてくるみたいだからしっかりアップで全身撮ってあげてね。」
 「アップで全身? なんで?」
 「きっといい画が撮れるわよ。じゃあ又後で。」
 狐につままれたような気持ちで去って行く吉村を見送る一番若手のカメラマン、足立だった。

自剃毛

 あそこの毛を反り上げるのは初めてではなかった。大学での体操で大会に出場する際に、先輩から注意されて剃ったことがあった。しかしその後は、全部を剃り落すことはなく際になる部分だけはみ出ないように剃るのが通常だった。あかねは亜紀に言われて、皆んながそうしてるのなら自分がもしもの事があって迷惑掛けるといけないと、思い切って全部剃り落してしまうことにしたのだった。
 シャワー室の鏡であらためてみて、全ての恥毛を喪ったその部分は童女のようではあるが、同時に卑猥でもあった。
 あらためてレオタードを穿き直してみて、その日の衣装は白系だったので却って透ける心配がなくなって思い切って剃ってしまってよかったのだと思うのだった。

あかね微笑

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